本研究の目的はKAGRAの懸架系の構築に適した、機械的散逸の小さい接合手法を確立し、重力波検出器KAGRAの感度向上に貢献することである。具体的には物体同士の接合(特にサファイア同士の接合)における接合面での機械的散逸の大きさを定量的に測定し、KAGRAに適した接合手法を確立することである。 重力波検出器の到達可能な感度を決定する原理的な雑音の一つは、レーザー干渉計を構成する原子の熱振動に起因する雑音(熱雑音)である。熱雑音の大きさは機械的散逸と呼ばれる系のエネルギー散逸を表すパラメータに比例するため、機械的散逸の小さい接合を行うことでKAGRAの懸架系の熱雑音が低減できる。そこで、本研究では種々の接合手法における機械的散逸の大きさを定量的に評価し、KAGRAの熱雑音を低減できるような接合手法を開発することを目的としている。 本研究で行った機械的散逸の測定において重要なことは、測定系に散逸を生じさせない方法を用いて測定サンプルを支持することである。そこで、測定サンプルとなるサファイアウェハーの中心を上下から挟み込む形で支持する支持治具の設計・製作を行った。この支持治具を冷凍機を用いて冷却することにより、ウェハーの温度を7K以下まで冷却できることを確認した。また、この治具を用いてサファイアのウェハーの機械的散逸を測定し、10^-8程度の非常に小さい散逸を測定できることを示した。この結果はKAGRAで使用している接合の評価に必要な性能を2桁以上も上回る高性能なものとなっている。 また、二枚のウェハーをKAGRAで使用されている種々の接合手法で接合したサンプルを作成し、各種接合手法で製作したサンプルの機械的散逸の大きさを定量的に測定した。特にGaおよびスミセラムを用いた接合サンプルの機械的散逸を低温で実測した例は今までになく、本研究によってはじめて機械的散逸の測定が達成できた。
|