229Thは、第一励起準位が8eV程度と原子核の中で最低で、エネルギースケールが真空紫外領域に対応するため、この準位は真空紫外レーザーにより励起することが原子核の中で唯一可能である。しかし、第一励起準位へのレーザー励起や、そこからの脱励起光の観測を試みる実験が行われてきたが、未だにそれらに成功した例はない。本研究では核共鳴散乱を用いた独自の手法を用いて、第一励起状態からの脱励起光を観測し、励起エネルギーや第一励起準位の寿命といった性質を決定することが目標である。具体的には、大強度放射光施設Spring-8で利用できる単色X線バンチビームを用いて229Thを第二励起状態(29.19 keV)に励起させ、それが脱励起することで第一励起状態の229Thを生成する。 本年度は229ThをドープしたCaF2結晶にX線ビームを照射して229Th原子核の第一励起準位を生成し、そこから脱励起する真空紫外領域の光子を観測する実験を行った。セットアップを改良し感度を向上させたが、第一励起準位からの有意な信号は観測されなかった。 またX線ビーム照射を続けることにより229Th標的結晶の色が透明から徐々に変化する、つまり透過率が低下していくことが前年度から分かっていた。本年度は真空紫外光探索実験と同じSPring-8のBL19LXUで重水素ランプ光源と分光器を用いて第一励起エネルギー付近を含む波長領域でX線ビーム照射による透過率の変化を測定した。またThをドープしていないCaF2結晶や高濃度の232Thをドープした結晶でも同様の測定を行い、ドープ濃度依存性を確認した。 今後はセットアップを改良し更に感度を向上させた上で第一励起準位からの脱励起光探索実験を進めていく予定である。
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