研究課題/領域番号 |
19K14746
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
西村 昇一郎 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 博士研究員 (20836431)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ミュオン / 超微細構造 / シミュレーション / 解析手法開発 / 検出器開発 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、高磁場中におけるミュオニウム超微細構造の測定精度を向上させるため、まず新解析手法として期待されている時間微分スピン共鳴分光法(ラビ振動分光法)の開発すること、および、系統的不確かさを見積もるための前置検出器の開発である。ラビ振動分光法はラビ振動信号の時間発展を直接フィットすることにより、離調周波数を求める方法である。これにより、共鳴周波数の測定が周波数・磁場掃引なしに行うことができ、マイクロ波強度の低下などによって引き起こされていた共鳴曲線が非対称になるような系統的不確かさの影響をもはや受けなくなる。高磁場実験のラビ振動分光法の開発はシミュレーションを用いて行った。まず単一マイクロ波強度におけるラビ振動信号の定式化を行い、次にミュオニウムが感じる磁場分布を計算することで、実際に実験で得られる信号を計算することができた。シミュレーション信号にラビ振動分光法を適用したところ、実際に共鳴周波数が得られることが確認できた。精度の改善性については引き続き見積もりを進めている。 前置検出器の開発として、シミュレーションを用いた設計を進めた。前置検出器はパルスビームに対応するため、セグメント化されたファイバーシンチレータとMPPCを合わせたものを想定しており、長さや配置等の最適化が必要であった。シミュレーションにより信号あるいはバックグラウンドになる陽電子数から、配置場所、長さの設計が完了した。今後はこの結果に従って試作機を製作する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度ついては、シミュレーションを使った前置検出器の設計と高磁場中での時間微分スピン共鳴分光法(ラビ振動分光法に改名)の開発を行った。まず、開発を行うに先立って、高磁場中のミュオニウム超微細構造の精密測定のためのGeant4ベースのシミュレーションを開発した。実際の実験に用いる超伝導磁石の磁場測定を行い、その結果をシミュレーションに取り込んだ。 前置検出器開発については、信号となるキャビティ内に止まったミュオンからの陽電子検出数とそれ以外の場所から発生してバックグラウンドになる崩壊用電子検出数を用いて長さと位置の最適化に成功した。 また、ラビ振動分光法のベースとして解析的な計算から高磁場実験の信号の時間発展の式を導いた。実際に実験で得られる信号はミュウオニウムが感じるマイクロ波磁場強度が分布を持つことによって複雑な形になる。まず、上記のシミュレーションツールによって得られたミュオン静止位置分布と解析的に計算されたマイクロ波磁場強度分布からミュウオニウムが感じるマイクロ波磁場強度を計算し、次にその情報を時間発展の式に代入して、実験で得られる信号を計算が完了した。得られたシミュレーション信号にラビ振動分光法を適用した。離調周波数、信号強度、マイクロ波磁場強度をフリーパラメータにして、得られた信号をフィットした結果、たしかに離調周波数が得られることを確認することができた。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度については、引き続きラビ振動分光法の開発を継続する。従来法と比較して統計的な優位性があるのかを確認し、またマイクロ波強度がふらついたときの影響が従来法とラビ振動分光法でどのように違いがあるかをシミュレーションで明確にする。またHラインが完成すれば実際にデータを取得して実データへの適用を進める。 前置検出器はまず32チャンネル試作機の製作を進める。本測定とは別にゼロ磁場環境でも良いので、ミュオンビームを使ってレート耐性等の性能評価試験を行う。性能試験の結果をまた実測定の解析での組み込み方をシミュレーションベースで検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの影響で様々な会議や打ち合わせがなくなってしまった影響と、実験装置を大量にまとめ買いしたことにより安くして節約したことにより、次年度使用額が生じた。次年度繰り越しでは前置検出器をより改良するのに必要な物品購入に当てる予定である。
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