研究実績の概要 |
本研究では、銀河系内陽電子起源の有力候補として考えられているIa型超新星(Double Detonation model)の観測的証拠を掴むための観測機器の開発と観測研究を行なっている。Ia型超新星モデルの中でも、厚いHe外層の核燃焼の衝撃波で白色矮星の爆発を誘発するタイプのIa型超新星では、その外層の核燃焼時に大量の44Tiが合成されると考えられており、その崩壊時に放出される陽電子が我々の銀河内で供給されている可能性がある。つまり、Ia型超新星で44Tiが合成されている現場を捉えられれば、このIa型超新星の陽電子起源の最も強い証拠になる。 我々は、この44Ti崩壊γ線(68 keV, 78 keV)の観測精度の飛躍的向上のため、ニューハンプシャー大やNASAと協力し、γ線TESカロリメータと硬X線望遠鏡を組み合わせた気球実験計画を進めている。今年度は米国の気球計画にプロポーザルを提出したが、未採択となったため、次回に向け再度提案書を作成している。硬X線望遠鏡の開発に関しては、多層膜研究をNASA/GSFCで開始した。Ni コーティングを可能にするため、新たなスパッタ装置を導入し、現在その立ち上げ作業を行なっており、次の年度から実際に膜付け研究を行う予定である。 観測研究に関しては、Ia型超新星の残骸(ケプラーの超新星残骸)の膨張速度を Chandra 衛星のグレーティング観測で測定し、その三次元構造に迫った(Matthew et al. 2020, ApJ)。加えて、Ia型超新星の残骸の構造と超新星シミュレーションの構造を直接比較できる手法を開発した(Sato et al. 2019, ApJ)。これらの構造研究の他にも、超新星残骸内の元素組成に着目し、その爆発機構へ迫る研究を行なった(Sato et al. 2020a,b)。
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