研究課題/領域番号 |
19K14753
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大屋 瑶子 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (00813908)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 電波天文学 / 星形成 / 星間物質 / 星間化学 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、半統計的数 (10~20個) の太陽型原始星に対して、円盤形成領域における物理構造と化学組成分布、およびそれらの相互関係を高解像度で明らかにすることで、惑星系形成領域での物質進化の理解を大きく前進させることである。とくにその有効な切り口として、硫黄を含む分子 (硫黄関連分子) に着目して観測的研究を進めた。 この目的のため、国際共同大型電波干渉計アルマ (Atacama Large Millimeter/submillimeter Array; ALMA) のもつ、既存の望遠鏡に比べて10倍にも上る高い感度と解像度を駆使した観測実験を実施した。低質量原始星天体Elias 29での観測データの解析により、原始星形成に伴う硫黄関連分子の化学進化と、天体を取り巻く環境効果との関連を指摘した。この成果は国内外の会議で発表するとともに、学術論文として報告した (Oya et al. 2019, The Astrophysical Journal, 881, 112)。また、低質量原始星天体IRAS 16293-2422 Source Aでは、H2CS分子輝線の観測によって、惑星系形成の場である円盤形成領域の詳細構造 (10天文単位スケール) を描き出すことに成功した。この天体は近接した連星系であり、連星系を取り巻くガス構造と、連星系を成す原始星の一つを取り巻くガス構造をもつことを明らかにした。この成果は既に国内外の会議で発表しており、2020年度内に学術論文として報告することを予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
低質量原始星天体Elias 29のALMAによる観測データの解析を行った。硫黄関連分子であるSO分子輝線とSO2分子輝線の解析から、原始星を取り巻くガスの回転運動を明らかにした。一方で、一般に他の原始星天体で強く検出されるCS分子輝線は弱いことがわかった。この天体は、原始星を取り巻く回転構造に加えて、原始星の南側に500天文単位離れた位置にもガスの構造 (ridge成分) があることが知られている。このridge成分では、原始星近傍とは反対に、CS分子輝線が強く検出された。申請者は、硫黄関連分子以外の分子輝線の観測とも併せて解析することで、環境的要因がこの天体の化学組成に影響している可能性を指摘した。この天体は、周囲の星からの紫外線照射の影響を受け、ガスの温度が比較的高い (20 K以上) ことが知られている。上記の新たな観測事実は、原始星形成過程に伴う硫黄関連分子の化学進化を探る手がかりを与えると期待される。この成果は国内外の会議で発表するとともに、学術論文として報告した (Oya et al. 2019, The Astrophysical Journal, 881, 112)。 低質量原始星天体IRAS 16293-2422 Source AにおけるH2CS分子輝線のALMA観測により、この天体における10天文単位スケールでのガスの運動と温度分布を明らかにした。とくに、Source Aを構成する連星系のうちの一つである原始星A1では、付随する円盤構造の縁における急激な温度上昇を見出した。申請者は以前に、この天体における硫黄関連分子 (OCS分子、H2CS分子) 間での分布の違いを報告しているが、温度上昇が見られる位置と分子分布の変化が見られる位置はほとんど一致しており、物理構造と化学構造の関連が示唆される。この成果は国内外における会議で発表した。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況で述べたIRAS 16293-2422 Source AにおけるH2CS分子輝線の解析結果をまとめ、学術論文として報告する予定である。加えて、この天体の新しい観測データを取得した。この観測データはOCS分子輝線の高解像度観測を含む。申請者はこれまで、この天体における硫黄関連分子の観測データを豊富に取得しており、これらを併せて解析を進めることで、原始星・円盤形成に伴う硫黄関連分子の進化の理解を目指す。加えて、硫黄関連分子を用いた円盤の物理構造解析の確立を進める。 申請者は、欧・米との国際共同研究である大型化学サーベイ観測 (Fifty AU Study of the chemistry in the disk/envelope system of Solar-like protostars; FAUST) を、共同研究者として推進している。このプロジェクトによって、複数の硫黄関連分子を含む多種の分子スペクトル線を13天体で観測した。このプロジェクトでは、現在までの進捗状況で述べた天体Elias 29も観測しており、申請者はこの観測データの解析を主導している。これまでの解析から、Elias 29は、OCS分子とH2CS分子に乏しいことが示唆されている。既に報告したSO分子・SO2分子・CS分子の解析結果と併せることで、暖かい環境下での硫黄関連分子の進化に迫る。このデータの解析を進めるため、大容量ストレージを措置する。
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次年度使用額が生じた理由 |
米国での国際会議およびイタリアでのALMA大型プログラムFAUSTの打ち合わせを予定していたが、COVID-19の流行により中止されたため。どちらの会議も状況の改善を待って開催される見込みであり、2020年度中に開催されれば旅費として計上する予定である。
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