研究課題/領域番号 |
19K14754
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
竹腰 達哉 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特任助教 (00714164)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | サブミリ波 / 銀河形成 |
研究実績の概要 |
広視野カメラを用いたミリ波・サブミリ波帯連続波の観測は、初期宇宙から現在に至る宇宙星形成史を統計的に理解するうえで、最も重要な観測手法である。測光赤方偏移を効率的に決定するためのサブミリ波帯多色撮像観測システムとして、可視・近赤外線観測で一般的な、フィルター交換方式を提案する。既存の単色サブミリ波カメラに交換可能な4色(150, 220, 270, 350 GHz帯)の広帯域フィルターを搭載し、駆動系と組み合わせることで光学フィルターの交換を容易にする、「サブミリ波版フィルターホイール」を実装することで、多色での撮像観測の実現する。本装置の実現によって、多色のサブミリ波帯連続波観測を、既存の単色サブミリ波カメラシステムで効率よく行うことが可能となり、早期の多色サブミリ波サーベイ観測の実現が期待される。本研究では、フィルターホイール方式による多色観測の原理実証を目指し、サブミリ波光学フィルターの製作手法の確立と、フィルター交換機構と組み合わせた基礎評価を行うことを目指す。具体的には、高精度かつ安価なフレキシブルプリント基板(FPC)技術をベースにしてサブミリ波光学フィルターの設計・製作・評価を行うとともに、試験用のフィルター交換機構の製作を行う。さらに、光学フィルターとフィルター交換機構を組み合わせ、フーリエ分光器など既存の実験装置を用いて統合光学試験を行う。 初年度は、フレキシブル基板技術を用いた広帯域サブミリ波フィルターの開発を推進した。特に、電磁界シミュレーションによるフィルター透過率の計算手法を確立し、フィルターを多層化することによって広帯域かつ急峻なバンド特性を持つフィルターをデザインした。フィルターは既存のFPC技術を用いることで短納期、かつ安価に製作でき、テラヘルツ時間領域分光法を用いた透過特性の測定によって、電磁界シミュレーションと一致する性能を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本計画を実現するうえで最も重要な開発要素である、サブミリ波光学フィルターの設計・製作・測定手法を確立することができた。さらに、それらの結果を査読論文としてまとめることができた。本研究の終了後に本格的な開発を予定しているサブミリ波カメラシステムの、望遠鏡への搭載と科学観測に向けた議論を開始した。大規模な高赤方偏移星形成銀河サーベイの実現に向けて、順調に観測装置開発が進みつつある。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の発展として期待される、サブミリ波望遠鏡搭載に向けた新観測装置の計画が具体化しつつある。現在、本研究の代表者を含む研究グループ(東京大学、国立天文台ほか)において、半導体チップ上にデザインされた広帯域バンドパスフィルターを用いることで、1つの焦点面で多色を同時に取得する検出素子の検討が進められている。この技術は、本研究で提案するフィルターホイール方式と比べ、異なる観測バンドを同時に取得できるという利点がある。そのため、新観測装置においては、フィルターホイール方式よりも効率的な観測が可能なオンチップフィルター方式が採用される見込みである。一方で、半導体チップ上のフィルター設計においては、高調波成分の漏れ込みが問題になっており、その漏れ込みを抑制すべく、本研究で開発された超広帯域光学フィルターが極めて重要な開発項目になっている。そこで、今後の統合光学試験においては、フィルターホイール方式は原理実証に十分な評価を行う一方で、新規にオンチップフィルターと光学フィルターを組み合わせた評価試験を実施することを検討している。フーリエ分光器など、基本的な測定装置に変更はないため、本研究の範囲内で実施できる見込みである。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究終了後に本格的な開発を行うサブミリ波カメラでは、効率的な観測が可能なオンチップフィルター方式が採用される見込みになった。これによってモーター駆動のフィルターホイール機構の要求性能と費用を大幅に抑えることができるため、初年度における製作を見送った。2年度目においては、簡便かつ安価なフィルター交換機構を製作すると同時に、すでに成果が出ているフィルターのさらなる高性能化を目指して、製作と測定を実施する。初年度において発表を予定していた研究会が、COVID-19の感染拡大防止対策のために中止となった。また、フィルターの性能評価のための謝金の支払いが生じなかった。次年度においては、統合評価試験のための謝金が必要な見込みであり、またオンチップフィルター方式でのサブミリ波光学フィルター設置のための治具の製作が必要なため、その開発費としても使用する。
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