研究課題/領域番号 |
19K14757
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
國生 拓摩 名古屋大学, 理学研究科, 講師 (60803442)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 大マゼラン雲 / スーパーシェル / 誘発的星形成 |
研究実績の概要 |
星団の放射圧や超新星爆発の衝撃波の複合体であるスーパーシェルは、星間物質との相互作用により星形成を誘発すると考えられている。しかしスーパーシェルは大規模な構造であるため、周りの星形成との関係を調べることが難しく、その物理メカニズムは良く理解されていない。本研究では衝撃波トレーサ―である近赤外[FeII]・H2輝線の広域マッピングや、前主系列星の進化段階をもとに星形成誘発のメカニズムを探る。 赤外線アーカイブデータを用いて大マゼラン雲の前主系列星の研究を進めた。具体的には、約5000天体の赤外線SEDを解析し、その空間分布や星質量、進化段階を調べた。その結果、スーパーシェルを含む水素ガスに沿って若い前主系列星が分布しており、スーパーシェルによる星形成トリガーの様子を捉えた。その上で、スーパーシェルに付随する前主系列星は星質量が系統的に小さいことが分かった。このことから、スーパーシェルによる星形成トリガーは大質量星の形成には有効でないことが示唆される。 IRSF望遠鏡に狭帯域フィルターを搭載して、スーパーシェルの[FeII]・H2輝線マッピングを行う予定であったが、新型コロナウイルスの影響のため、昨年度に引き続き観測を実施できていない。一方で、分光フォローアップのための専用分光器の準備を進めた。本装置は完成しているものの、検出器の読み出し回路に一部不具合があった。この影響で安定した運用が難しかったため、新しい読み出し回路を設計、製作して、観測装置に取り付けて問題なく動作することを確かめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究では、大マゼラン雲の輝線マッピング観測と、既存のアーカイブデータを用いた前主系列星の解析結果をもとに、スーパーシェルによる星形成誘発のプロセスを調べる。当初はこれらの観測とデータ解析を並行して進める予定であったが、新型コロナウイルス拡大の影響のため、観測で用いるIRSF望遠鏡が2022年度前半までおよそ2年間シャットダウンしており、観測を十分に実施できていない。アーカイブデータを用いた前主系列星の解析はおおむね順調に進み、輝線マッピング観測で優先して観測する天体も選定済みである。 2022年度の後半にIRSF望遠鏡は復帰して、現在はシャットダウン前と同じ観測性能が確かめられている。このため、2022年度の後半から南アフリカ共和国に渡航して、上記の輝線マッピング観測を開始した。しかし、当初予定していた大マゼラン雲のスーパーシェル領域をほとんどカバーできていないため、研究進捗は遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
既存のデータアーカイブを用いた大マゼラン雲の前主系列星の解析から、とくに若い天体を多く伴うスーパーシェルを特定した。さらにスーパーシェル以外の領域でも、水素ガスの濃いシェルに沿って若い天体が分布する領域を特定した。これらの領域は誘発的星形成が起きている可能性が高いため、優先して[FeII]・H2輝線のマッピング観測を行う。IRSF望遠鏡は、2022年度の後半に新型コロナウイルス拡大に伴うシャットダウンから復帰したため、観測は問題なく実施できる予定である。これらの観測結果を組み合わせて、銀河全体の星形成活動における誘発プロセスの重要性を探る。また、上記の観測と並行してIRSF近赤外線分光器の開発を進め、望遠鏡へ搭載する。同装置の試験観測を行い、期待される性能を確かめ、スーパーシェルの分光フォローアップを行う。とくに前主系列星が多く、[FeII]・H2輝線で明るい衝撃波シェルを対象に近赤外線スペクトルを解析し、星間ガスの物理状態を調べて星形成誘発の条件を探る。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の間にIRSF望遠鏡や新しい分光器による観測を進める予定だったが、新型コロナウイルス拡大の影響のためこれらの観測を行うことができず、次年度使用額が生じた。この差分額は、次年度以降の観測旅費や装置の輸送費に充てる計画である。
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