星団の放射圧や超新星爆発の衝撃波の複合体であるスーパーシェルは、星間物質との相互作用により星形成を誘発すると考えられている。しかしスーパーシェルは大規模な構造であるため、周囲の星間物質との相互作用による星形成誘発を調べることは容易ではない。本研究では近傍銀河の大マゼラン雲に着目し、前主系列星の系統的解析や、衝撃波トレーサ―の近赤外[FeII]・H2輝線の広域マッピングをもとに星形成誘発のメカニズムを探る。 宇宙望遠鏡や地上望遠鏡で得られた点源カタログを用いて、大マゼラン雲の前主系列星4825天体の赤外線spectral energy distributionを解析し、その進化段階や空間分布、星質量を調べた。その結果、スーパーシェルを含む水素ガスに沿って若い前主系列星が分布しており、スーパーシェルによる星形成トリガーの兆候を捉えた。とくにスーパーシェルを含むHI ridge領域北で前主系列星の進化が進んでおり、銀河進化の比較的早い段階で活発な星形成が起きたと考えられる。また、スーパーシェルに付随する前主系列星は星質量が系統的に小さいことが分かった。このことから、スーパーシェルによる星形成トリガーは大質量星の形成には有効でないことが示唆される。 上記のアーカイブデータを用いた研究に加えて、IRSF望遠鏡に狭帯域フィルターを搭載して、HI ridge領域の[FeII]・H2輝線マッピングを行った。また、分光フォローアップのための専用分光器の準備を進めた。本装置はすでに完成していたが、高感度な検出器を入手できたため、この新しい検出器に最適化した光学・機械設計を行い、並行して専用の読み出し回路を完成させた。今後、光学調整を完了させてIRSF望遠鏡に搭載し、観測を始める予定である。
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