研究課題
本研究の基礎となる、熱駆動型円盤風モデルと実際のブラックホールX線連星の分光データの比較の手法について、英国 Durham 大学の Chris Done 教授と共同でまとめた論文を出版した (Shidatsu & Done et al. 2019)。この研究では、Chandra 衛星で過去に得られた、増光中のブラックホールX線連星 H1743-322 の X 線分光データに見られる高電離の青方偏移した鉄の吸収線に対して熱駆動型円盤風モデルを適用し、モデルから予測される吸収線構造と実際のデータの比較を行なった。その結果、両者は非常によく一致することがわかった。さらに、同様の手法を、ブラックホールX線連星 4U 1630-472 の Chandra データに対しても適用した。X線光度の異なる時期に得られた複数のデータについて、モデルが予測する吸収線構造との比較を行なったところ、増光のピーク付近以外の観測データについては、モデルの予測と非常によく一致した。増光のピーク付近においてデータとモデルに差異が生じた原因については輻射圧の影響が考えられるが、今後より詳細な調査が必要である。また、2022年打ち上げ予定の XRISM (X-Ray Imaging and Spectroscopy Mission) プロジェクトのメンバーとともに、XRISM に搭載予定のマイクロカロリメータを用いたブラックホールX線連星の高分散分光観測の検討を行なった。私は、打ち上げ後の初期観測期間に、全天X線監視装置 MAXI による速報に基づいて、増光中のブラックホールX線連星の分光観測を実施することを提案した。また、プロジェクトの科学面だけでなく、技術面でも、衛星で得られたデータの一時処理ソフトウェア、および関連するデータサーバーの試験・検証計画の策定に貢献した。
3: やや遅れている
データ解析等については、概ね当初の予定通りに進んでいる。ただし、新型コロナウイルスの影響により研究会や国際会議が延期となった影響で、2019年度末に予定していた成果発表の機会が得られなかった。
今年度と同様、Chandra などで得られたブラックホールX線連星のアーカイブデータを用いて、吸収線の構造の解析と、モデルとの比較を行い、観測される吸収線が熱駆動型円盤風として統一的に説明できるかを調べる。さらに、新たな吸収線データを取得するために、全天 X 線監視装置MAXI を用いてブラックホールX線連星の光度変動を監視し、増光が起これば、ただちに Chandra や Swift などの X 線衛星をもちいて分光観測を行う。また、XRISM プロジェクトに関しては、チームメンバーと協力して、データの一次処理ソフトウェアの試験や、MAXI と連携したブラックホールX線連星の観測の検討をさらに進める。
コロナウイルスの感染拡大により、年度末に開催予定であった学会・研究会が相次いで中止または延期となり、当初計画していた旅費・講演登録費の支出がなくなったため。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件)
The Astrophysical Journal
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