研究課題
昨年度に引き続き、2022年度打ち上げ予定のX線衛星XRISMのマイクロカロリメータを用いたブラックホールX線連星の高分散分光観測の検討を行なった。私は、打ち上げ後の初期観測期間(機能運用性能確認フェーズ)に、全天X線監視装置MAXIによる速報に基づいて、増光中のブラックホールX線連星の分光観測を実施することを提案している。今年度は、プロジェクトチーム内の会議で、観測の重要性や期待される成果等についての発表を行った。その結果、本観測提案は所長裁量時間(時期の予測が難しい天体現象が発生した際に観測を実施する時間枠)の観測ターゲット候補に加えられ、観測期間中にX線連星の増光が発生し、他のX線衛星の観測で電離吸収線が検出された場合に観測が実施できることとなった。2021年2月には、国際会議 "43rd COSPAR Science Assembly" で、これまでにX線データを用いて得られたブラックホールX線連星の円盤風の研究成果と、XRISMを用いた今後の研究の展望に関する講演(招待講演)を行った。また、最近、増光中のブラックホールX線連星の数天体から、円盤風由来の青方偏移した吸収線がX線だけでなく可視光帯域でも見つかっているが、X線の吸収線として見えている円盤風との関連性や、質量降着率に対する依存性等はほとんど理解されていない。そこで、今年度は、岡山天文台の京大せいめい望遠鏡を用いて、増光中のX線連星の分光観測を複数回実施した。現在、その観測データを解析し、円盤風による吸収線の有無を調査している。
2: おおむね順調に進展している
XRISM衛星によるブラックホールX線連星の観測の検討・準備が順調に進んでおり、2019年度にコロナウイルスで延期された国際会議が今年度開催され、これまでのChandraのデータと円盤風モデルとの比較で得られた研究成果や、XRISMで期待される観測成果を発表することができた。一方、計画していた海外の研究機関に赴いての共同研究は、今年度も実施できなかった。また、当初の研究計画になかった可視光の円盤風由来の吸収線探査を行うことができた。
これまでと同様、アーカイブデータを用いて、ブラックホールX線連星の吸収線の形状の解析と円盤風モデルとの比較を行い、観測される吸収線が熱駆動型円盤風として統一的に説明できるかを調べる。加えて、新たな吸収線データを取得するために、全天X線監視装置MAXIを用いてブラックホールX線連星の光度変動を監視し、増光が起これば、ただちにChandraやSwiftなどのX線衛星をもちいて分光観測を行う。また、XRISMプロジェクトに関しては、2022年度の打ち上げに向け、衛星総合試験など重要な地上試験が行われる予定である。私は、衛星が取得したデータの一次処理と、それに関連するシステムの試験を担当している。プロジェクトチームのメンバーと協力して、これらの試験を実施するとともに、打ち上げ後のブラックホールX線連星の観測の準備を進めていきたい。また、これまでに得られた京都大学せいめい望遠鏡の可視光の分光データを解析し、可視光の吸収線・輝線の起源を調べる予定である。
コロナウイルスによる外出・移動制限により、学会・研究会の一部が中止あるいはオンライン開催となり、また共同研究のための海外渡航ができなかった。そのため、当初計画していた旅費や一部の講演登録費の支出がなくなった。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
The Astrophysical Journal
巻: in press ページ: -
巻: 910 ページ: 25~25
10.3847/1538-4357/abde38
巻: 899 ページ: L20~L20
10.3847/2041-8213/abaaaa