研究課題
(1) XRISM への貢献2022 年度に打ち上げ予定の X 線衛星 XRISM を用いたブラックホールX線連星の観測の検討を、昨年度に引き続き進めている。2021年5月には、研究会「Microquasar Workshop 2021」において、XRISM を用いた特異なブラックホールX線連星 SS 433 の噴出流の観測から期待されることについて招待講演を行なった。また、XRISM 科学運用チームのメンバーとして、地上データ処理システムのソフトウェア開発・検証などに携わり、プロジェクトの推進に技術面からも貢献した。(2) MAXI J1803-298 の発見2021 年に新たなブラックホール候補天体 MAXI J1803-298 を MAXI で発見した。その後の Swift 衛星などによる観測から円盤風由来の吸収線も検出され、新たな円盤風データのサンプルを得ることができた。増光中の MAXI や Swift 衛星のX線データを解析したところ、降着円盤の状態変化の際に数日程度の時間でスペクトルが変動しており、これは高密度の円盤風が噴出しX線放射領域を遮ったことにより生じた可能性があることがわかった。この結果を論文にまとめ (Shidatsu et al. 2022, ApJ)、2022年3月の天文学会春季年会などでも報告した。(3) 可視光で検出される円盤風の調査近年、増光中のブラックホールX線連星数天体から、円盤風由来の青方偏移した吸収線が可視光帯域でも見つかっているが、X線の吸収線として見えている円盤風との関連性や、質量降着率に対する依存性等はほとんど理解されていない。その解明を目的とし、前年度に引き続き、岡山天文台の京大せいめい望遠鏡を用いて、増光中のX線連星の分光観測を実施した。現在、その観測データを解析し、円盤風による吸収線の有無を調査している。
2: おおむね順調に進展している
XRISM衛星によるブラックホールX線連星の観測の検討・準備は順調に進んでいる。技術面でも、衛星からの生データを処理するソフトウェア・関連するシステムの開発・試験に貢献できた。また、X線だけでなく、可視光の分光観測による円盤風の探査も実施している。一方、計画していた海外の研究機関に赴いての共同研究は、コロナウイルスの影響により今年度も実施できず、参加予定であった国際会議も延期された。
XRISMの打ち上げは2022年度の予定である。チームメンバーとともに、打ち上げ後初期の性能確認期間に予定されいるX線連星の観測計画の最終確認を行い、万全の体制を整える。また、本格化しつつある衛星本体と地上システムの総合試験に対して、これまでのデータ解析・ソフトウエア開発・試験の経験を生かして貢献したい。また、昨年度に引き続いて、Chandra 衛星などのアーカイブデータを用いて、ブラックホールX線連星の吸収線の形状の解析と円盤風モデルとの比較を行い、観測される吸収線が熱駆動型円盤風として統一的に説明できるかを調べる。加えて、これまでに京都大学せいめい望遠鏡で得られた可視光の分光データの解析結果をまとめ、可視光の吸収線・輝線の起源について論文や研究会で報告する。さらに、新たな吸収線データを取得するために、全天X線監視装置MAXIを用いてブラックホールX線連星の光度変動を監視し、増光が起こった際には、X線衛星や可視光などの望遠鏡をもちいて分光観測を行う。
コロナウイルスによる外出・移動制限により、学会・研究会の一部が中止あるいはオンライン開催となり、また共同研究のための海外渡航ができなかった。その ため、当初計画していた旅費や一部の講演登録費の支出がなくなった。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 5件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
The Astrophysical Journal
巻: 927 ページ: 190~190
10.3847/1538-4357/ac5258
巻: 927 ページ: 151~151
10.3847/1538-4357/ac517b
Publications of the Astronomical Society of Japan
巻: 73 ページ: 1405~1417
10.1093/pasj/psab085
巻: 73 ページ: 1262~1279
10.1093/pasj/psab073
Journal of Astronomical Telescopes, Instruments, and Systems
巻: 7 ページ: 1~25
10.1117/1.JATIS.7.3.037001