研究課題/領域番号 |
19K14767
|
研究機関 | 統計数理研究所 |
研究代表者 |
白崎 正人 統計数理研究所, 統計思考院, 助教 (70767821)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 銀河団 / 熱的スニアエフゼルドビッチ効果 / 重力レンズ |
研究実績の概要 |
第二年度は、実際の観測データを使った銀河団のガスと質量分布に関する研究を行った。銀河団内部の陽子衝突に起因するガンマ線放射は、その存在が示唆されているものの、依然として観測されていない。我々は、銀河系外からくるガンマ線背景放射の中に、銀河団から到来するガンマ線がないかを統計的に調査した。宇宙に存在する銀河団を広く集めるために、宇宙マイクロ波背景放射(CMB)における熱的スニアエフゼルドビッチ効果(通称SZ効果)を利用した。SZ効果は、銀河団内の高温ガスとCMB光子が出会うことで、逆コンプトン散乱を通じて、CMBゆらぎに特徴的な周波数依存性が生じる現象である。プランク衛星によるCMB観測から、SZ効果に起因するゆらぎのマップが推定されている。このSZマップと、フェルミ衛星が観測するガンマ線の相関解析により、遠方の銀河団からガンマ線が到来しているかを調べた。実際の観測データでは、有意な相関が検出できなかったが、未検出であることから、銀河団内部からのガンマ線放射に上限をつけた。この上限は、近傍の銀河団からくる制限と比較して、数倍強い。得られたガンマ線放射の上限から、銀河団の成長過程で生じる衝撃波による陽子の加速能率は5%以下でなければならないことを示した。さらに、すばる望遠鏡による銀河撮像観測による銀河団探査手法を詳細に調べた。銀河撮像観測では、遠方の銀河が手前の重力によって形を変える重力レンズという現象を用いて、銀河団を探査する。この探査手法で、重力レンズと無関係な銀河団銀河が混入することで、銀河団の検出効率が下がることを発見した。しかし、測光的赤方偏移の情報を巧みに利用することで、この銀河団銀河の混入の効果は小さくできることも併せて発見した。この結果は、現在進行中のすばる望遠鏡による第二公開データに応用される予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第二年度は、多波長の観測データを用いて、銀河団のガスと質量分布に関する研究を進めることができた。初年度に開発した理論モデルと合わせて、着実に銀河団の統計的な性質の理解が進んでいる。
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度は、これまでの理論的・観測的な知見を生かした銀河団の統計モデルの構築を検討している。特に、銀河団の質量分布を正確に予言するために、銀河団ガスの物理、銀河団内部の銀河の混入の効果などを、初年度に開発した理論モデルに組み込むことで、信頼性の高いモデルを構築する。得られたモデルは、観測された銀河団に適応可能で、銀河団の質量分布をベイズ解析を通じて正確に推定するのに用いられる予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス流行により、予定していた出張の予定がキャンセルになったため、研究費の利用は当初の予定通りに進められなかった。新たに次年度使用可能になった研究費は、観測やシミュレーションで得られる大規模データを解析するための計算機の購入や論文出版費用に企てる予定である。また新型コロナウィルスの流行状況が緩和するような状況になれば、研究打ち合わせを目的にした国内出張費にも充てる。
|