研究課題/領域番号 |
19K14767
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研究機関 | 統計数理研究所 |
研究代表者 |
白崎 正人 統計数理研究所, 統計思考院, 助教 (70767821)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 銀河団 / 重力レンズ / 高速電波バースト |
研究実績の概要 |
2021年度の主な研究実績は以下のとおりである。(1) 銀河団内部の銀河速度分散によって決まる力学的な質量と、重力レンズ解析によって決まる重力的な質量が一致するかを実際の観測データを用いて検証した。23個の銀河団を用いた解析では、二つの質量の間に統計的な違いは見られなかった。この結果を用いて、ビリアル定理により25億年前の宇宙での重力定数を制限し、地球近傍で知られている値と約20パーセントの統計誤差の範囲で整合していることを確認した。そのほかにも、ブレーン重力理論など複数の修正重力理論に関する観測的な制限をつけることに成功した。(2) 電波領域での突発天体である高速電波バースト(Fast Radio Bursts; FRB)と銀河・銀河団と相互相関解析により、大規模構造に付随する電離ガスの分布を明らかにし、宇宙論的な情報を引き出せることを理論的に示した。1平方度あたり1つ程度のFRBを観測する将来観測により、銀河団とFRBの相互相関で、宇宙の平均的なバリオン密度や密度揺らぎの大きさなどの宇宙論の基本的な情報を数パーセントの統計精度で制限できることがわかった。加えて、銀河や銀河群とFRBの相互相関を加えることで、既存の観測で制限することが難しい銀河周辺のガス質量も10パーセント程度の精度で決定できることがわかった。(3) すばるHyper Suprime Camサーベイによる銀河撮像データと、アタカマ宇宙望遠鏡で見つかった銀河団を用いた重力レンズ解析を進め、実際の観測データの解析に必要なパイプラインを構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度の実績として触れている(1)(2)の研究課題については、両者とも王立天文学会月報に論文として公表することができた。(3)の研究課題についても、必要なパイプラインの構築はほぼ終わっており、2022年度の論文発表に向けて準備は整った。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、すばるHyper Suprime Camサーベイによる銀河撮像データと、アタカマ宇宙望遠鏡の電波観測で見つかった銀河団を用いた重力レンズ解析により、銀河団の熱的ガスと重力質量についての新しい知見を得ることを目標にする。解析に必要なパイプラインの構築は終わっている。パイプラインのテストと統計誤差の評価のために、模擬観測データの作成を進める。統計誤差の推定が終わり次第、銀河団の物理パラメタを決定するためのモンテカルロ解析に移行し、次年度中に科学的な成果を論文としてまとめて公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症により想定した国内出張と海外出張が全て見送らざるを得なかったため、次年度使用額が生じた。感染症の流行が収まり海外渡航が安全に行われる見込みとなった場合、共同研究者が在籍している米国イェール大学への出張費に充てる。加えて、学会参加のための国内出張費としても利用する。もし、依然として感染症の流行が収まらない場合は、解析に必要なデータサーバの購入費用に充てる。
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