銀河系中心領域に点在する著しく広い輝線幅を有する小型分子雲「高速度コンパクト雲」の運動や物理状態を手がかりに、超大質量ブラックホールの起源解明の鍵となる中間質量ブラックホールを探し出すことを目指した観測的研究を展開した。ALMAで得られた高速度コンパクト雲の分子スペクトル線データを精査することにより、約1万太陽質量の"見えない質量(=中間質量ブラックホール候補)"周りのケプラー回転を示す分子ガス流を発見した。さらに、極めて広い速度幅を有する超小型の高速度コンパクト雲(ultra-compact clump; UCC)を2つ検出し、ALMAによる追観測(分解能0.3秒角)で空間分解を試みた。UCCはこの観測においても十分に空間分解されなかったが、急峻な速度勾配を有することが判明し、そのサイズと速度から1000太陽質量程度の見えない質量が潜んでいる可能性が示唆された。 並行して、野辺山45m望遠鏡を用いて銀河系中心領域の広域分子ガスサーベイ観測を実施した。その結果、銀河系中心領域における衝撃波領域をこれまでにないスケールで描き出すことに成功し、中心核から対称的に約200 pcに渡ってSiO輝線強度比が示す特異な傾向を発見した。このSiO比の解釈として、過去10万年以内に起きた爆発的な中心核活動の痕跡である可能性を指摘した。 最終年度は、野辺山やJCMTにより取得された広域サーベイデータとMeerKATの電波連続波データを比較することで、点状電波源が付随する高速度コンパクトを複数発見した。これら点状電波源は高速度コンパクト雲の駆動源である可能性があり、中間質量ブラックホールの対応天体候補として今後重要な観測対象となる。
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