研究課題/領域番号 |
19K14769
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
植田 準子 国立天文台, アルマプロジェクト, 特任助教 (60749935)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 電波天文学 / 銀河形成 / 銀河衝突 |
研究実績の概要 |
宇宙の主要な構成要素である銀河は、衝突や合体を繰り返して進化してきた。本研究では、銀河に分布するガスの特性から、銀河衝突による円盤銀河の形成を観測的に検証することを目的とする。当該年度は、電波望遠鏡「アルマ望遠鏡」を使用して、近傍宇宙にある衝突末期段階の14の銀河に分布する分子ガスを観測し、円盤銀河の基礎となる分子ガス円盤の有無を調査した。
サンプルにおける分子ガスの性質は、以前にも電波観測データを用いて調査している。しかし、その電波観測データには欠点があった。電波望遠鏡には「電波干渉計」と「単一鏡型電波望遠鏡」の二種類がある。電波干渉計は、高空間分解能で天体の細かい構造を観測できるが、広がった天体を検出できない。一方、単一鏡型電波望遠鏡は、広がった天体の検出に優れているが、分解能の点で電波干渉計に劣る。アルマ望遠鏡は電波干渉計(12mアレイ)と単一鏡型電波望遠鏡を含む望遠鏡群(ACA)で構成されているが、先行研究で使用したデータは12mアレイのみで取得されていた。そのため、広がった分子ガスが検出できていなかった。
そこで、広がった天体の検出に優れたACAを使用して、14の銀河に分布する分子ガスを再観測した。最新の解析技術を用いて、ACAと12mアレイで取得した電波観測データを足し合わせて電波画像を作成した。それにより、細かい構造の情報を失うことなく、広がった分子ガスも検出することに成功した。その結果、10の銀河で分子ガス円盤の存在が確認され、以前の調査結果よりも広範囲に分子ガスが分布していることがわかった。また、検出された分子ガスの量を比較したところ、平均して1.3倍増加した。銀河中心付近ではガスの検出量は同等であるが、中心から離れるにつれて検出量の差が大きくなる傾向があった。本研究の観測・解析により、衝突末期段階の銀河に分布する分子ガスの広がりや量を適切に測定できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は、衝突末期段階の銀河に形成された分子ガス円盤の再実証とその性質の決定に取り組んだ。本研究においてアルマ望遠鏡を構成するACAと12mアレイで取得された観測データの足し合わせは技術的課題であったが、同様の解析経験が豊富な研究者からのサポートを得ながら、無事に終了した。当該年度に予定していたデータの解析は順調に進んだ。その後、新しく得られた電波画像を用いて物理量を導出し、それらをまとめる作業を進めている。今後は、研究結果の発表にも力を入れていく必要があると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は、銀河に分布するガスの特性から、銀河衝突による円盤銀河の形成を観測的に検証することである。当該年度は分子ガスに着目して研究を進めていたが、今後は中性水素原子(HI)ガスにも焦点を当てる。合体後の衝突銀河が円盤銀河に進化するシナリオのひとつとして、銀河衝突によって一度銀河の外に放出されたHIガスが、再び銀河に降着して円盤銀河のもとを形成する可能性がある。分子ガスの材料となるHIガスは、分子ガスよりも広範囲に分布する希薄なガスのため、衝突の衝撃によって銀河本体から吹き飛ばされやすいことが数値シミュレーションにより示されている。円盤銀河を形成する可能性を網羅するためには、分子ガスだけでなくHIガスの調査も必要である。
そこで、HIガスの観測が可能な電波干渉計「超大型電波干渉計群(JVLA)」で取得されたデータを利用し、銀河に降着したHIガスにより円盤形成が進んでいる可能性を探る。基本的に、JVLAで取得された観測データの解析手法は、アルマ望遠鏡で取得された観測データの解析手法と同じである。場合によっては、HIガスの観測・解析経験が豊富な研究者からのサポートを得ながら解析作業を進める。次に、外部から降着したHIガスにより円盤が形成されている痕跡を探すために、理論モデルと比較する。また、分子ガスの観測データとも合わせて、銀河衝突を経験した銀河におけるガスの物理的性質の導出にも取り組む。得られた結果は科学論文にまとめ、国内・国際会議で研究成果の発表することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた国際会議への参加がなくなり、旅費の支出額が想定していた額を下回ったことが主な理由である。今後は研究成果の発表にも力を入れていく予定である。次年度使用額は、研究会参加のための経費や論文出版費等に使用する予定である。
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