研究課題/領域番号 |
19K14770
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
鈴木 昭宏 国立天文台, 科学研究部, 特任助教 (50647659)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 超新星 / 流体力学 / 放射輸送 / シミュレーション / 大質量星 |
研究実績の概要 |
重力崩壊超新星爆発の一部は、爆発直前に親星から放出されたガス(星周物質)と爆発による噴出物(エジェクタ)との衝突によって輝いていると考えられている。そのような超新星はスペクトルに幅の狭い輝線/吸収線を示し、水素が存在するかしないかに応じてIIn型あるいはIbn型超新星と分類される。IIn型超新星には非対称な輝線や直線偏光の検出など、エジェクタと星周物質が非球対称な分布をしていることが示唆される観測事実が存在する。星周物質の空間分布の解明は、未だ不明な星周物質の起源に迫る上で重要な情報であり、理論モデルとの詳細な比較が必要だと考えられる。 本研究では、球対称および円盤状の星周物質と超新星エジェクタとの衝突を2次元放射流体力学シミュレーションによって再現し、衝突によってどのようにエジェクタの力学的エネルギーが散逸し、発生した放射エネルギーがエジェクタ・星周物質内をどのように拡散するかを調べた。その結果、円盤状星周物質の場合において、異なる視線方向から観測した場合の光度曲線に顕著な違いが現れることを発見した。視線方向が円盤と重なる場合には、光度曲線が進化する時間スケールは円盤内の光子の拡散時間を反映して長くなり、結果として光度曲線は遅い立ち上がりとゆっくりとした減光を示す。一方で、視線方向が円盤と重ならない場合には、観測者は膨張する超新星エジェクタ内の光球を直接観ることとなり、比較的早い立ち上がりを示す光度曲線が得られる。これらの特徴は円盤状星周物質と相互作用する超新星を観測的に同定する上で重要な情報である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
特に問題なく進展している。 本研究課題の中で一つの柱となる課題である超新星エジェクタと非球対称な星周物質との相互作用の研究において、放射流体シミュレーションを実行した。 また、中心からのエネルギー注入のある超新星エジェクタの進化について、3次元流体シミュレーションを実行した。 この課題については、次年度以降に2次元放射流体力学シミュレーションへの拡張を予定しており、テストシミュレーションの実行を進めている。 上記の実行済みのシミュレーションに基づいた研究成果はすでに査読論文誌から出版されており、(2)おおむね順調に進展しているという自己評価となった。
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度の研究により、超新星エジェクタと非球対称な星周物質との相互作用の放射流体力学シミュレーションを実行した。この課題については、今後は異なるパラメータでのシミュレーションを行うとともに、シミュレーションの結果を用いた研究も進めていく。具体的には、シミュレーションによって得られた密度,温度,速度の空間分布を用いて放射スペクトルの計算を行う予定である。円盤状星周物質と衝突した超新星エジェクタは大局的な双極構造を示しており、その速度構造はエジェクタ全体が光学的に薄くなった際の輝線プロファイルから判別可能だと考えられる。 単純には、双極的なエジェクタを軸方向から観測した場合には二つピークを持つ輝線プロファイル、赤道面から観測した場合には一つのピークを持つ輝線プロファイルが予想される。また、観測されているIIn型超新星の中には二つのピークを持つ輝線プロファイルを示す天体もあるが、理論モデルとの詳細な比較はまだ行われていない。そこで、シミュレーションのスナップショットを用いたポストプロセス計算により、輝線プロファイルを予想し、観測との比較を行う。 また、上記のシミュレーションと同じ計算コードを用いた別の課題も進める。通常の超新星よりも10-100倍程度の光度で輝く超高輝度超新星の中心エンジンシナリオに基づいて、超新星エジェクタの中心付近において放射エネルギーを注入した場合の2次元放射流体力学シミュレーションを開始する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年2-3月に参加予定であった研究会(日本天文学会春季年会など)がCOVID-19の感染拡大の影響を受け、中止ないしは遠隔開催となったため、旅費が不要となった。 次年度使用額は次年度の所要額全体に比べ少ないため、次年度の旅費や物品購入費用にくり込むことを予定している。
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