研究課題/領域番号 |
19K14770
|
研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
鈴木 昭宏 国立天文台, 科学研究部, 特任助教 (50647659)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 超新星爆発 / ガンマ線バースト / 放射輸送 / 流体力学 / 大規模シミュレーション |
研究実績の概要 |
本研究課題では、重力崩壊型超新星爆発の中でも特に爆発エネルギーが大きな天体や放射エネルギーが大きく明るい天体の起源解明を目指し、主に流体力学・放射流体力学に基づいたシミュレーションを用いた研究を推進する。具体的な超新星の種族としては、ガンマ線バーストに付随して現れるbroad-lined Ic型超新星や近年の突発天体探査によって明らかとなった超高輝度超新星を対象とし、そのような特異な超新星からの電磁波放射の統一的な理解に迫る。 本年度は、broad-lined Ic型超新星の早期可視光放射の起源に関連して、ジェットによって爆発する大質量星の3次元特殊相対論的流体シミュレーションを行なった。Ic型超新星 SN 2017iukや付随するガンマ線バースト GRB171205Aのガンマ線検出から2-3日以内の可視光追観測は、ジェットと大質量星とが相互作用した結果として生まれる高速エジェクタ成分(コクーン成分)からの熱放射を捉えたと考えられている。このコクーン放射シナリオの検証及び放射計算を目的としたエジェクタモデル構築を3次元特殊相対論的流体シミュレーションによって行い、GRB 171205A/SN 2017iukからの早期放射のスペクトルモデルから示唆されるエジェクタ構造および化学組成との比較を行なった。シミュレーションの結果、ジェットの注入によって大質量星の鉄コア付近で合成された重元素(鉄、コバルト、ニッケル等)が効率よくコクーン成分に混合され、GRB 171205A/SN 2017iukで確認されたそれらの元素による吸収の特徴をよく説明できることが明らかになった。本結果は、査読論文として既に出版されている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は「研究実績の概要」に挙げたガンマ線バーストが付随する超新星の研究について、査読論文を1編出版した。この成果は特異な超新星の観測的特徴をシミュレーションを基にした研究から明らかにするという目的で初年度から継続的に研究が進展してきた結果である。 一方で、COVID-19の感染拡大の影響で依然として海外の研究機関への訪問や現地開催の国際学会への出席、またはそのような場においての研究発表が難しい状況であり、新たな国際共同研究の立ち上げなど予想を超えるような研究の発展は特になかった。以上の背景から、本課題が「(2)おおむね順調に進展している」と判断するに至った。
|
今後の研究の推進方策 |
ガンマ線バーストを伴う超新星の起源解明を目的としたシミュレーション研究については、計算コストの制約からジェットの注入条件などが異なる3モデルを計算し、それらの結果を比較するに留まった。一方で、ガンマ線バーストジェットの注入条件やガンマ線バーストを起こす大質量星の密度構造・星周環境といった条件は天体ごとに大きく異なることも十分に考えられ、シミュレーション上でのフリーパラメターとなっている。今後は計算資源を増強することで、より広いパラメータスペースにおいてシミュレーション結果が初期条件にどのように依存するかを調べることで、GRB 171205A/SN 2017iukと観測的特徴を同一にする天体がどのような条件で生まれるのか、などを考察することを予定している。 また、数値シミュレーションによって明らかとなった、コクーン成分の密度構造や速度分布等の情報を用いて、コクーン成分の可視光熱放射やX線及び電波領域での非熱放射がどのくらい明るくなり、そこからコクーンやジェットのどのような物理量の情報を引き出すことができるかについても検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度はCOVID-19感染拡大の影響で世界的に国際研究会が少なく、開催されたとしてもオンラインによるものが多かったため、国内外を含めた旅費使用額が予算と比べて大幅に減額となった。 次年度については、状況が改善される可能性もあり、可能であれば国外への渡航費などに使用したい。しかしながら、状況は依然不透明であり場合によっては予算をシミュレーション結果格納のためのストレージの購入などに充てる可能性もある。
|