本研究では、斜長石中に含まれる離溶磁鉄鉱の磁気的性質を用いて、形成初期における火星の磁場強度を推定する事を目的とした。研究期間内においては以下の内容を実施した。(1)道志ハンレイ岩体・オマーンオフィオライト・ダルース複合斑レイ岩体の岩石試料を単結晶まで破砕し、実体顕微鏡を用いて斜長石単結晶を採取、塩酸処理をして結晶表面に付着する鉱物片等を取り除いた後に各種の測定を行なった。交番磁場勾配磁力計を用いた斜長石単結晶試料の磁気ヒステリシス測定を行い、斜長石単結晶中に含まれる磁鉄鉱量を計算した。磁気測定に用いた斜長石試料を樹脂埋め・研磨した後に、電子顕微鏡を用いて斜長石中の鉄含有量を測定し、さらに、X線吸収微細構造測定によって斜長石中の鉄価数や配位環境の情報を得た。これらの測定により、斜長石単結晶中に含まれる磁鉄鉱含有量と鉄化学種の関係を得ることに成功した。(2)各種実験装置(超電導磁力計、熱消磁装置、交流消磁装置)の設置・立上げ作業を行い、同装置を用いて斜長石試料の残留磁化着磁・段階消磁測定を行い、斜長石中の離溶磁鉄鉱の残留磁化獲得効率の計測を行なった。(3)Rhyolite-MELTSソフトウェアを用いてマグマ中から晶出する斜長石組成の計算を行い、その結果と項目1で得られた斜長石中の磁鉄鉱含有量と鉄化学種の関係を用いて、火星地殻における斜長石中の磁鉄鉱量の見積もりを行なった。斜長石中の離溶磁鉄鉱含有量および項目3で得られた離溶磁鉄鉱の残留磁化獲得効率の値から火星地殻の残留磁化獲得効率の見積もりを行い、人工衛星の観測値から得られている残留磁化強度の情報を用いて形成初期における火星磁場強度の推定を行なった。
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