研究課題
月・火星探査において岩石のカリウム・アルゴン年代を現地で計測することを目指し、手法開発を行った。具体的には、これまで元素分析に技術的困難を抱えていたレーザー誘起絶縁破壊分光法による元素分析に集中的に取り組んだ。2020年度は、装置を惑星探査に用いることを念頭に置き、小型(~ 1.5 kg)の赤外レーザーを使用した。このレーザー光を1~1.5 m先に設置した月隕石に照射して鉱物を局所的にプラズマ化させ、発光スペクトルを取得した。2019年度に作成したスペクトル多変量解析モデルを用いて、発光スペクトルに現れる輝線から元素分析を行った。試料には月の海由来の玄武岩と、高地由来のレゴリス角礫岩という月の異なる地質を代表する2通りの隕石を用いた。レーザー照射実験の結果、(1) 斑晶として海の玄武岩に含まれる鉱物の組成が推定できること、(2) 月試料の全岩組成の定量分析が可能であることが分かった。この結果は本手法によって月試料の分析が可能であることを強く示唆する。さらに、校正試料の組成範囲を最適化することによってさらに元素分析の精度が向上するとの示唆が得られた。他方アルゴン計測に資する開発として、岩石から抽出されるガスの精製に用いる小型のゲッターポンプを製作した。このポンプは活性金属を焼結させたもので、惑星探査ミッションでの搭載実績を持つ物質からなる。これまで本研究では外部昇温式ゲッターポンプを用いていたが、新しく製作したポンプは焼結体内部に通電して直接ゲッター材を加熱する構造となっている。そのため、限られた電力を有効に加熱に活用しつつ、希ガスの精製を行えることが期待される。
3: やや遅れている
発光分光法による岩石の主要元素分析の技術開発は順調に進展しているものの、岩石中の希ガスを分析するための真空装置に改修が必要となり、一度分析ラインを分解する必要が生じた。これにより、年代計測実験の進行が予定よりも遅れている。
真空ラインの復旧を行ったのちに、真空槽内にレーザーを照射するビームラインの調整を行う。装置のキャリブレーションを再度行い、月隕石および火星隕石の年代計測実験を進める。
国内・国外ともに学会出張がなくなったため。真空ラインの修繕と光学実験用の消耗品代として活用するほか、論文の出版費用として使用する。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 4件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
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