研究実績の概要 |
本研究では、月・火星探査において岩石のカリウム・アルゴン年代を現地で計測することを目指し、一連の原理実証実験を行った。まず、火星において実現可能な原理上の精度限界を検討するため、NWA1068、Zagami、NWA817の三つの火星隕石に対して、EPMA(電子プローブマイクロアナライザ)分析を実施した。これにより個々の鉱物相を同定し、各相の大きさや形状、そこに含まれるカリウムの濃度を記録した。その鉱物マップに基づいて、異なるレーザー径や年代を持つ火星の岩石を計測したときに得られるK-Arアイソクロン(等時線)をモデル化した。その結果、40億年の年代をもつ火星の岩石に対して2億年の精度で年代を得るために必要な測定条件を見出した。 また、実際にNWA1068隕石を真空容器に入れてパルスレーザを照射し、カリウム・アルゴン年代を計測した。予備的な結果によると、4スポットのデータから作成した 内部アイソクロン年代は726±132 Maと計算された。これは、すでに報告されているNWA1068のK-Ar年代610 Maと誤差の範囲で一致しており、本手法によるアイソクロン年代計測の成立性を強く示唆する結果であった。また、アイソクロンの切片として得られた値2.71±14.9E-07 cm3STP/gは, 先行研究において報告されている過剰アルゴン(1.32E-06 cm3STP/g, Bogard et al. 2009)と誤差の範囲で一致する。今までの測定方法では放射崩壊由来のArとトラップされたArの区別することが不可能であったが、今回の測定ではトラップされたArを検出できた可能性がある。このことは測定された年代の精度向上に寄与する。以上のことから、本研究で開発するレーザーアイソクロン法が火星の岩石についても適用できることを強く示唆する結果が得られた。
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