研究課題/領域番号 |
19K14781
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
北村 成寿 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 特任助教 (80757162)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | イオン流出 / FAST衛星 / FACTORS計画 |
研究実績の概要 |
将来の戦略的小型カテゴリーへの再提案を目指しているFACTORS衛星計画による地球からのイオン流出過程(特に波動によるイオン加速過程)の詳細研究を見据え、地球極域からの顕著なイオン流出がどのような条件でどの種類のエネルギー流入に伴って発生するか明らかにするためにFAST衛星のデータ解析を推進している。 FAST衛星の1998年付近の遠地点付近(高度3000-4100 km)のイオン、電子、電磁場のフラックスについての統計解析結果(大フラックスのイオン流出は日陰時にはほとんど起こらない事及び電離圏へのエネルギーインプットとイオン流出フラックスの経験的関係式)では、約1年程度のイオン種の区別は無いデータを用いて解析を行ったが、新たにイオン種を区別したデータについて長期にわたって較正が終了したという連絡があった。これにより、特に酸素イオン流出に着目できるように新たな解析プログラムの準備や新たな期間でのイベント選定を進めた。しかし、イオン質量分析ありのデータを利用して解析を進めた結果、少なくとも一部に再較正が必要な可能性が見られ、イオン質量分析なしのデータから抽出した大フラックスイオン流出イベントについて、イオン質量分析ありのデータとの整合性のチェックを進めている。 イオンの加速についてはイオンのサイクロトロン周波数付近の電場の波動の重要性が指摘されているが、大フラックスのイオン流出に伴ってどの程度の強度の波動が見られるのかは十分明らかになっていない。イオンの観測データに加え波動データの解析も行い、特に磁気嵐などイオン流出が活発になる時期について、イオン加速に伴って従来シミュレーションなどで用いられるよりもかなり強い波動が観測されることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
FAST衛星の長期のデータを解析できるように処理を行い、一定以上のフラックスのイベントについて、電離圏へのエネルギーインプットとイオン流出フラックスの経験的関係式に構築を進め、1998年付近については論文出版に至ることができたが、それ以前の期間については恐らく太陽活動が低い影響でイオンのフラックスが小さい傾向で、今までと同じ手法で経験的関係式を組むのが困難な可能性が示唆されてきている。太陽活動極小期には大フラックスのイオン流出は起きないという事を定量的に示すことも成果となるので、その観点から解析を進めている。また、電離圏へのエネルギーインプットとイオン流出フラックスの相関を直接研究するのではなく、イオンを加速する波動の強度と電離圏へのエネルギーインプットとの経験的関係式を構築することで、イオン流出フラックスの理解につなげる事を検討し、解析を進めた結果、比較的相関の良いエネルギーインプットの同定を行うことができた。 FAST衛星のデータ解析を進めていく中で新たに使用可能になったイオン種を区別したイオン観測器のデータについて解析を進めた結果、特に本研究で重要視しているフラックスが大きいイベントについて、一部に再較正が必要な可能性が示唆された。イオン質量分析なしのデータから抽出した大フラックスイオン流出イベントについて、イオン質量分析ありのデータとの整合性のチェックを行い、妥当性や再較正の必要性を慎重に検討しているため遅れが生じた。一方、同時にイオン流出フラックスを議論する際に、イオン組成を分別して解析する事が重要であること、イオン組成分析無しのデータの限界も定量的に明らかになってきており、これは当初の期待を超える部分である。
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今後の研究の推進方策 |
FAST衛星の質量分析ありのデータのうち少なくとも一部は大きな問題が無い事も分かりつつあるので、データの信頼性が確認できた期間を優先して一定以上のフラックスイベントの抽出とそれに伴う波動の解析を優先して行い、大フラックスのイベントの発生の必要条件や大フラックスのイオンを流出させる物理過程の理解を進展させる。太陽活動度が低い時期については、エネルギーインプットや波動が弱いためにイオン流出フラックスが大きくなりにくいのか、エネルギーインプットや波動は一定程度の強度があるにもかかわらずイオン流出フラックスが大きくならないのかを識別する。そのために、前年度新たに着手し解析プログラムは準備を行った電場の波動の解析に関連する部分も併せ、イオン質量分析のデータの信頼性が確認できた部分から順次再解析を進める。 加えて、波動によるイオン加速については、FAST衛星で観測された程度の波動がどの程度のイオン流出フラックスを生じることが期待されるか、新たにNASAのグループの協力を得てシミュレーションも用いて検討し、評価を行うことでイオン流出フラックスを決める物理過程の理解を進展させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
参加意義が大きいと期待される海外での国際学会が2年度目に複数存在したために1年度目に次年度使用を予定したが新型コロナウイルスの世界的蔓延の為、リモートのみでの開催で参加費も0、またはさらに次年度へ延期となる状況が発生し、学会参加のための経費を使用する必要が無くなってしまった。3年度目から4年度目初期まで特に海外出張がやや困難で、引き続きハイブリッド開催になるなどして、オンライン参加で海外で開催される学会参加のための経費が予定より少なくなった。データ解析上の遅れが生じたため、残額について可能な範囲で延長申請し、十分な議論、成果発表の為の学会等の現地参加への旅費、論文出版費への使用を予定している。
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