研究課題
本研究では、MAVEN観測データ解析から電流シート通過および磁気リコネクションイベントの統計調査を行うことで、磁気リコネクションが火星イオン流出において果たす役割を解明することを目的とする。本年度は、前年度に得られた初期結果を発展させ、独自に開発した自動判定アルゴリズムを約10,000軌道分のMAVENデータに適用することで、3163の電流シート通過イベントと、358のイオンジェットイベントを同定した。これらのイベントについて、空間分布、磁場構造・形状、太陽風依存性、電流シートの厚み、および磁気シアとプラズマベータ差の関係を統計的に調べた結果、以下の特徴が見出された:(1) 太陽向きおよび反太陽向きのイオンジェットの両方が、火星周辺の昼夜両側の広い空間範囲で観測される; (2) イオンジェットと同時に観測された電流シートの磁場構造と磁場形状は、磁気リコネクションから予測されるものと整合する; (3) ジェット発生は上流太陽風条件には依存しない; (4) 観測された電流シートの大多数は、厚みがイオン特性長と同程度以下で低ベータプラズマに挟まれており、無衝突磁気リコネクションの発生条件を満たしている。これらの結果は、火星周辺空間の広い空間範囲において、太陽風条件に依らず、無衝突磁気リコネクションが起こりうる電流シートが頻繁に形成され、実際に磁気リコネクションが発生していることを示唆している。以上の成果を投稿論文としてまとめ、公表した。さらに本年度後半は、上述の成果の発展として、イオン散逸への寄与の評価を開始した。論文として公表した多数のイベントを用いて、瞬時散逸率と総散逸率を算出し、他のバルクイオン流出機構との比較を行った。これらの初期結果をMAVENのチームミーティングで発表した。
2: おおむね順調に進展している
前年度に引き続き、研究実施計画に従って研究を遂行した。火星周辺で観測される電流シートとイオンジェットイベントについて、統計解析結果をまとめた論文を公表した。さらに、この結果を利用して、最終年度に向けて磁気リコネクション加速によるイオン散逸率の評価を開始することができた。よって、本研究課題の進捗は概ね順調であると言える。
研究実施計画に従い、火星上部電離圏での磁気リコネクション加速によるイオン散逸率の評価を進める。これまでの結果から、イオンジェットの総発生率は上流太陽風条件に依存しないことが明らかになったが、イオンジェットの密度・速度・発生場所などの特性の太陽風依存性は未導出である。こうしたイオンジェット特性と太陽風状況を事例ごとに詳しく調べることで、磁気リコネクションの詳細な発生状況やイオン加速の物理機構について議論を深化させる。
新型感染症の拡大により国内・外国出張を実施できなかったことが主な理由である。次年度に必要な物品費および成果発表費として有効に使用する予定である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件)
Journal of Geophysical Research: Space Physics
巻: 125 ページ: e2020JA028576
10.1029/2020JA028576