研究課題
本研究では、MAVEN観測データからイオンジェットを伴う磁気リコネクション発生事例を統計調査し、磁気リコネクションが火星イオン流出において果たす役割を評価することを目的とする。本年度は、前年度に公表した論文中で解析された、多数の磁気リコネクションイベントを用いて、電流シート中のイオンジェットによるイオン散逸率を見積もった。その結果、個々のイベントにおけるイオンジェットによる瞬時散逸率は、他のバルクイオン流出機構(磁気フラックスロープや境界層不安定性による流出)について推定されている瞬時散逸率と同程度の散逸を担い得ると見積もられた。一方で、磁気リコネクションイベントの全球的な発生頻度を考慮した、時間平均した散逸率は、全てのイオン散逸プロセスを総合した総散逸率の高々1%程度以下であると推定された。散逸機構の全球的なデューティ比や電流シートの空間構造の大きさを正確に評価することは困難であり、上記の見積もりには大きな不確実性が含まれるが、磁気リコネクションによる直接加速のみでは、総イオン散逸率に大きく寄与しないことが示唆された。ただし、磁気リコネクションは、イオンジェットによる直接的な流出に加えて、(1)イオン散逸に好都合な場所へプラズマを輸送する、(2)磁気フラックスロープを形成する、(3)磁気トポロジーを変えることでイオンアウトフローの流出チャンネルを開く、などの間接的な役割を通じてイオン散逸を促進する可能性があるため、今後は他のイオン散逸プロセスへの関与も含めて調査すべきである。以上の結果を、国際学会AOGS2021でオンライン発表した。
3: やや遅れている
「研究実績の概要」に記述した通り、磁気リコネクションによるイオン散逸率の評価という目的に対して一定の成果を得られたものの、COVID-19の影響により、一部の海外学会・研究会への現地参加が困難となり、最終年度に予定していた研究成果発表を十分に実施できなかったため、「やや遅れている」と判断した。
本研究では、MAVEN観測データ解析に基づき、磁気リコネクションが火星イオン流出において果たす役割を明らかにすることを目指している。2021年度までの研究により、電流シート通過およびイオンジェットイベントの自動同定手法の開発・MAVEN観測データへの適用、イオンジェットイベント特性と磁気リコネクション過程との整合性の検証、イオンジェットイベント発生率の空間分布・太陽風条件依存性の調査、イオンジェットによるイオン散逸率の推定を実施し、磁気リコネクションが駆動するイオン散逸率の評価という目的に対して一定の成果が得られている。しかしながら、COVID-19の影響により、最終年度に予定していた成果発表を十分に行うことができなかった。そのため、研究期間を1年間延長し、得られた成果の学会発表および学術論文投稿を優先して研究を推進する。
COVID-19の影響により、当初予定していた外国出張を実施できなかったことが主な理由である。次年度に必要な成果発表費として有効に使用する予定である。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 1件)
Journal of Geophysical Research: Space Physics
巻: 127 ページ: e2021JA029867
10.1029/2021JA029867
Earth, Planets and Space
巻: 74 ページ: 1
10.1186/s40623-021-01417-0
巻: 73 ページ: 216
10.1186/s40623-021-01452-x