研究課題
金星は地球の双子星であるが,この二つの惑星は全く異なる気候進化を遂げた.その大きな要因の一つである金星の光学的に厚い硫酸雲に着目し,本年度は探査機「あかつき」の2μmカメラ(IR2)が取得した近赤外画像の解析を中心に研究を行った.IR2の2.02μmフィルターで観測される金星昼面における反射太陽光の強度は,大気上端から雲の最上部高度(雲頂高度)までに存在する二酸化炭素による光の吸収量によって決定される.これに放射伝達モデルを用いた反転解析を行うことで雲頂高度が得られる.本研究では,2016年4-5月に取得した93枚の2.02μm画像から雲頂高度を調べた.雲頂は赤道対称構造をしており,雲頂高度は赤道で最も高く(約70km),緯度45度付近までは緩やかに下降し(約2km),緯度50-60度から高緯度に向かって急激に下降することが明らかとなった(赤道と緯度70度付近で約10km異なる).一方,低緯度における雲頂高度の太陽地方時依存性については,1km程度の変動はあるものの有意な傾向は見られなかった.雲頂高度の局所的な変動は数百m程度であり,「あかつき」の中間赤外カメラや紫外イメージャで観測された大気重力波に伴う定在構造をIR2でも確認することができた.興味深いことに,雲頂高度の微細模様は同時取得した紫外模様に比べてコントラストが小さく,必ずしも両者の形状に相関はなかった.ここまでの研究内容は国際学術雑誌Icarusに掲載された(Sato et al., 2020).次のテーマとして雲形成に関与又は雲層付近の光化学反応の担い手となる微量大気の空間分布を把握するため,地上赤外望遠鏡IRTFの高分散赤外分光装置iSHELLのデータ解析に着手した.2018年8月に取得したLバンドデータ(3-4μm)の校正手法を確立し,大気物理量の導出に道筋を立てることができた.
2: おおむね順調に進展している
探査機「あかつき」のIR2が2.02μmフィルターを用いて取得した連続撮像データから雲頂高度を導出し,その緯度分布や太陽地方時依存性,局所的な変動について考察を深めることができた.本テーマで得られた内容は査読付き論文として国際学術雑誌Icarusに掲載された.また,地上赤外望遠鏡IRTFの高分散赤外分光装置iSHELLを用いて取得した金星大気の分光データに対して校正手法を確立し,大気物理量導出の道筋を立てることができた.以上から,研究はおおむね順調に進展していると考えている.
1年目の最後に手掛けた金星大気の高分散分光データから微量大気の空間分布を把握することを継続実施する.具体的には,(1) 金星が西方最大離角となる2020年8月にiSHELLを用いた観測を提案し,2018年と異なる太陽地方時のデータの取得,(2) iSHELLデータの反転解析に適したコードの開発 (放射伝達計算は開発済),(3) 微量大気の緯度分布の導出,を行う予定である.また,探査機「あかつき」のIR2が2.26,2.32μmフィルターを用いて取得した金星の夜面画像を解析することにより,雲層下部の一酸化炭素の時空間分布を明らかにする.IR2の夜面画像は,昼面からの漏れ込み光などの影響によりデータ校正に時間を要していたが,上記のような研究への利用目途も立ち,解析に取り掛かることが可能となった.校正手法については,国際学術雑誌Icarusに投稿中である(Satoh et al. 2020;研究代表者は共著者).
ワークステーションを購入する予定であったが,旅費(国内発表,国内出張,海外発表)が嵩んだため今年度は断念した.次年度は研究効率をさらに上げるため,新型コロナウイルス感染拡大の状況にもよるが,旅費を抑えて計算機環境を拡充する予定である.
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)
Icarus
巻: 345 ページ: 113682~113682
https://doi.org/10.1016/j.icarus.2020.113682
Geophysical Research Letters
巻: 46 ページ: 9457~9465
https://doi.org/10.1029/2019GL083820
巻: 46 ページ: 7955~7961
https://doi.org/10.1029/2019GL083311