研究課題/領域番号 |
19K14789
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
神山 徹 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 情報・人間工学領域, 主任研究員 (40645876)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 金星 / スーパーローテーション / 惑星気象学 / 熱潮汐波 / 惑星波 / あかつき / LIR |
研究実績の概要 |
本研究課題は近年見出された金星大気スーパーローテーションの時間変動性について、金星探査機「あかつき」が蓄積している観測データに基づきその実態をとらえ、理論の裏付けによりその成因を探ることを目的としている。本年度は1. 初年度に見出した金星雲観測高度が出射角依存性を持つことを活用し、「あかつき」に搭載の中間赤外カメラLIRによる熱潮汐波の鉛直伝搬構造の詳細解析に貢献するとともに、Kelvin波、Rossby波のそれぞれ異なる活動性の情報を得た。加えて2. 「あかつき」データの解析技術を応用し、はやぶさ2や小型衛星のデータの較正に活かす研究展開を実施した。 1. LIRが用いる中間赤外波長では、金星雲の観測高度が出射角依存性を持つ。この特性を生かし、金星大気スーパーローテーション維持メカニズムの一つとして重要と考えられている熱潮汐波の詳細な鉛直構造を、広い緯度帯で明らかにすることに貢献した。他方、惑星規模構造を持つ波動として確認されているKelvin波、Rossby波に対しても解析を進めた。60日間程度の期間の間に取得された金星雲温度データに対し、様々な伝搬周期を仮定し平均することでそれぞれの波成分の抽出を試みたところ、低緯度ではKelvin波の活動が時折強くなるさまが見られる一方、中高緯度ではRossby波が発生・消滅を活発に繰り返しているさまを確認した。 2. 初年度に引き続き、「あかつき」のデータ利用の経験を活かしたデータキャリブレーションの試みを「はやぶさ2」搭載の可視・近赤外カメラONCに対して実施した。はやぶさ2の目標天体であるリュウグウ到着後の、特にタッチダウン運用前後に不連続なカメラ感度の変化が生じていたことを定量的に明らかにし、その変化に応じた補正パラメータの準備を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
熱潮汐波はその重要性にもかかわらず、その詳細な理解には観測される構造と数値計算により得られる構造とが異なることが課題とされており、本成果では観測側からより多くの情報を提供することとなった。熱潮汐波同様、惑星規模構造を持つ波動として確認されているKelvin波、Rossby波に対し進めた解析では、これまで試みられてこなかった長期間、連続するデータに対する解析を実現し、発生・消滅を活発に繰り返しているさまを可視化することができた。惑星規模波動の時間変化については近年1サイクルの時間スケールが明らかになったばかりであり、その活動性について新しい視点を与える結果と考えている。上記金星大気に対する研究進捗に加え、本年度も衛星による探査に対する理解を深め、実際にその経験・知見を衛星搭載センサのキャリブレーションの実務に反映することができている。 以上のことから本年度は順調な研究展開ができたものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の解析の結果、発生・消滅のサイクルに関して描像が得られ始めたKelvin波・Rossby波の活動に注目したデータ解析を進めるとともにその成果を発表としてまとめる。別の共同研究から、夜側の風速場がLIRデータから初めて得られた。このような解析の進展を活かし、温度平均場だけでなく風速の全球分布の変化に対するモニタリングを実施し、熱潮汐波構造やスーパーローテーションそのものが時間とともにどう変化しているか、その端緒を得ることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由として、コロナのため予定していた海外での研究会や学会参加が延期やオンライン対応となり、旅費予定分の節約がなされたことによる。次年度は論文投稿時の英文校正経費やオープンアクセス費に利用するとともに、データ解析に利用する計算機環境の整備に充てる。
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