研究課題/領域番号 |
19K14789
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
神山 徹 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 情報・人間工学領域, 主任研究員 (40645876)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 金星 / スーパーローテーション / 惑星気象学 / 熱潮汐波 |
研究実績の概要 |
本研究課題は近年見出された金星大気スーパーローテーションの時間変動性について、金星探査機「あかつき」が蓄積している観測データに基づきその実態をとらえ、理論の裏付けによりその成因を探ることを目的としている。本年度は特に時間変動性に着目し、「あかつき」に搭載の中間赤外カメラLIRによる10金星年にわたる観測データを網羅的に解析し、金星雲高度に10金星年スケールの温度変動の存在を初めて明らかにした。さらにUVIデータから得られる雲追跡風速データとの比較から、スーパーローテーションにも10金星年スケールの長期変動が極めて高い相関を持って存在することも確認している。これはLee et al (2019)で数値計算により示された、雲のアルベド変化に伴う太陽光加熱の時間変化に、風速・大気温度が追随するという予想を支持する結果である。 本成果はLIRの長期観測データを用いたが、その際、LIRに系統的な感度特性変化が認められていたため、その補正が必要となった。本年度ではこの系統的な感度変化を補正する手法の提案を行い、LIRデータにおいてみられた「見かけ上の温度上昇」を十分な精度で補正することに成功した。このキャリブレーション成果があったことから上記の長期変動の存在を確認することができている。さらにこのようなキャリブレーションの知見を活かし、「はやぶさ2」搭載の光学航法カメラが小惑星タッチダウン時に経験した急激な感度低下の定量評価にも成功している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度では、10金星年にわたるような長時間スケールの大気変動の存在を、大気温度の観測から初めて明らかにした。過去の研究において、金星を覆う雲のアルベド変化、また金星大気を代表する現象である「スーパーローテーション」の時間変化が確認されており、本研究は大気の基本パラメータでありつつ観測が欠けていた「温度」について新たな情報を提供するものとなった。 風速、温度という2つの大気の基本パラメータの情報がそろったことで両者の比較も可能となった点も本研究の成果と考えている。実際、風速と温度の長期変動は極めて高い周期特性の一致を見せており、数値計算から予想された「太陽光加熱の時間変化」が風速、大気温度をもたらすことを強く示唆する結果となった。これは本研究課題で目標とした、金星大気の時間変化の成因の解明に対する一つの成果と考えている。 上記金星大気に対する研究進捗に加え、本年度も衛星による探査に対する理解を深め、LIRで見られた系統的な感度変化の補正手法を提案できた。データのキャリブレーションという地道な作業を粘り強く続けたことが上記の成果につながっている。 以上のことから本年度は順調な研究展開ができたものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題では特に温度と風速の長期変動の類似性を観測から示すことで、別途数値計算により提案されていた金星大気の長期変動の予想に対する定性的な示唆を与えることができた。他方、風速や大気温度の変化には大気全体の循環変化や波動によるエネルギー輸送の寄与が必要となるが、長期変動との関連性について調査は始まったばかりである。例えばシミュレーション研究との連携により観測で見られた長期変動の再現を通して、現在の金星大気内部で起きているエネルギー輸送を定量的に評価することで、「動的に変化する」系としての金星大気の新しい描像の提示を目指す。 また雲のアルベド変化を介して太陽から受け取るエネルギーの変化に伴い大気の状態が変化する様は、金星のような雲で全球を覆われた惑星一般に起こりうる現象と考えられる。このような知見を積み重ね、どういったパラメータを観測することが「金星型」、「地球型」の区別つながるか、考察を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスパンデミックにより、予定していた国内学会・国際学会、研究会への参加が延期・中止となったことから、研究成果報告に充当していた予算の繰り越しとして次年度使用額が生じた。 本繰り越し予算は研究成果の報告として、国内・国際学会への投稿費、およびその旅費、また論文投稿・出版費として使うとともに、研究によって得られた解析データ、解析ツールのバックアップに用いるデータ保存機器の購入に使用する。
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