研究課題
地球や火星などの岩石惑星の環境進化を論じる上で、水の挙動の理解は欠かせない。惑星は、いつ・どこから・どれほどの水を獲得したのだろうか。本研究では、岩石惑星の水獲得プロセスの解明を目的に、微惑星~原始惑星の欠片である小惑星由来の隕石の放射年代測定と揮発性成分の同位体化学分析を実施する。複数の隕石について、形成年代と水素・炭素・酸素などの同位体記録を組み合わせ、岩石母天体での水の挙動を議論する。本研究は、研究代表者が所属する宇宙航空研究開発機構と、東京大学、英国オープン大学の各研究チームにご助力いただき、国際的な研究体制で進めている。2019年5月以降、研究代表者は英国オープン大学に短期滞在し、隕石試料の選定と準備、および光学顕微鏡と電子顕微鏡での岩石鉱物観察を行った。本研究で用いる隕石群として、揮発性成分に富み、太陽系の初生的情報を残す始原的隕石(炭素質コンドライト)と、より進化した岩石小惑星の地殻を起源とする分化隕石群(ユークライトなど)を選定した。試料準備と観察を終えた隕石は、一部を国内へ持ち帰り、東京大学の二次イオン質量分析計を用いてウランー鉛年代測定を実施した。また、これらの局所化学種分析を試験的に実施した。他方で、一部の試料は未加工のままオープン大学に保管しており、次年度に高精度局所酸素同位体分析を実施する。現在までに予察的なデータを取得済みであり、今後の追実験を検討している段階である。
3: やや遅れている
本研究は、英国オープン大学および東京大学の研究チームにご助力いただき遂行している。計画では、2019年度内に (1)隕石試料の選定、(2)鉱物観察、(3)高精度酸素同位体分析、(4)局所ウラン-鉛年代分析を行う予定であった。研究代表者がオープン大学へ滞在中、(1)(2)は計画どおり実施できたが、(3)は技術改良の必要性が生じたため本年中の実施に至らなかった。(4)は、研究代表者が東京大学へ滞在して実施した。本研究対象とした始原的隕石では、リン酸塩鉱物などのウラン濃度が非常に低く、ウラン濃度が高い分化隕石で確立した分析法が使えない(十分な精度で年代を決定できない)ことが判明した。そのため、分析法の改良を検討中である。本年度後半に追加の分析を予定していたが、2020年2月以降の新型コロナウイルス感染拡大を受け、追実験は当面を見合わせている状況となっている。一方、比較として実施した分化隕石の局所ウランー鉛年代分析では十分な結果が得られ、これまでの分析データと合わせて「小惑星の衝突史」の解明に繋がった。これは、岩石惑星が形成過程において “いつ・どのくらいの天体衝突を経験したか” を成約するもので、本研究課題の主眼である「惑星の水獲得史」解明のベースとなる成果である。本成果に関する論文を、研究代表者が筆頭責任著者として投稿し、国際学術誌「Earth & Planetary Science Letters」にて査読を受けている段階である。このように、すでに一定程度の成果が見込まれる状況にはあるが、本年中に論文の掲載にまで至らなかった点、実験面での未解決課題が残されてしまった点を考慮して、「やや遅れている」と評価した。
2020年度は、本補助事業の最終年度である。本来ならば、当年度の前半に研究代表者が再び英国オープン大学へ滞在し、酸素・水素同位体分析に取り組んだ上で、年度の後半に研究成果をまとめる予定であった。しかし、昨今の社会情勢から、最短でも2020年の秋頃までは海外出張が困難になってしまった。さらに、国内での実験も、最短でも6月中旬まで実施できない状況にある。本研究課題は実験室での試料分析を前提としている性質上、当初の計画どおりの遂行が厳しい状況に立たされている。一方で、2019年度までに隕石試料の詳細な岩石鉱物情報を蓄積してきた。これらを元に、より具体的な実験計画をたてることは可能である。研究代表者は、ご協力いただいている国内外の研究者らと頻繁にメール・テレビ会議等で連絡をとり、議論を進めている。2020年度中に研究成果をまとめ、論文として査読付き国際学術誌に報告するべく、必要不可欠な追実験を夏までに精査する。秋以降、海外出張および実験室活動が再開され次第、集中的・効率的に分析を行い、短期間での課題達成を目指す。
当初計画で購入を検討していた岩石観察設備(精密切断機、研磨機、顕微鏡等)について、予算の都合から購入を見合わせ、代わりに宇宙航空研究開発機構やオープン大学の共同利用設備を利用させていただいた。そのため、物品費が計画より少なくなった。また、本年度後半に予定していた国際学会参加・国内外出張が、新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止となったため、その学会参加費等が少なくなった。以上の理由から、次年度使用額が発生した。2020年度は本補助事業の最終年度であるため、本研究成果の報告を予定している。発生した「次年度使用額」は、次年度の実験消耗品費に充てる他、投稿予定の論文の英文校正料、国際学術誌掲載料(オープンアクセス費用含む)、および国際学会(米国 Lunar and Planetary Science Conference)参加費に使用する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
Nature Communications
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