研究課題/領域番号 |
19K14791
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高麗 正史 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (80733550)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 乱流エネルギー散逸率 / 大気レーダー / 中間圏 / 成層圏極渦 / 対流圏界面 / 重力波 |
研究実績の概要 |
本年度は、南極の大型大気レーダーによって推定された乱流エネルギー散逸率に基づいて、(i) 成層圏極渦の季節変化を特徴づける研究、及び (ii) 極域冬季中間圏エコーに基づく中間圏の乱流パラメータの季節変化についての研究を実施した。 冬季南極成層圏に存在する極渦は、80m/sを超えるような風速を持ち、水平方向 (等温位面に沿う方向) の混合を阻害する障壁として作用する。この輸送障壁の結果、極渦の縁辺部で大気微量成分の水平勾配が大きくなる。水平方向の混合過程については主にロスビー波が担うと考えられており、数値的・観測的研究がこれまで多くなされている。一方で、鉛直方向 (等温位面を横切る方向) の物質混合については、重力波など小さな鉛直スケールの現象が担うと予想され、ほとんど調べられていない。研究代表者らのこれまでの研究で、極渦の季節変化が、成層圏内の乱流の動態に関係することを示唆する結果が得られていた。そこで、渦位に基づく緯度(等価緯度)を用いて、渦位-温位面に射影したエネルギー散逸率を解析した。極渦縁辺部は、極渦の十分内側に比べて、乱流エネルギー散逸率は大きくなることが分かった。この結果は、極渦縁辺領域において、極渦の内側に比べて、乱流による混合過程・物質輸送が活発であることを意味し、水平方向の輸送過程とは対照的な振る舞いをすることを示唆している。 次に、中間圏 (高度50~80km) の冬季に出現する極域中間圏冬季エコー (PMWE) に基づき、中間圏のエネルギー散逸率を推定した。エネルギー散逸率は冬季に極大となり、秋季・春季には小さくなる傾向が見られた。この季節変化は重力波活動の季節変化と概ね対応しており、重力波が中間圏における乱流生成の主要因であることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大型大気レーダーによる乱流エネルギー散逸率の推定により、成層圏極渦の乱流による特徴付けを行うことができた。また、南極中間圏の乱流強度の季節変化を示すことができた。 一方で、対流圏界面高度の力学解析について、再解析データを用いたデータ解析も進行中である。具体的には、(a) 成層圏突然昇温などの季節内変動による北極域圏界面高度の変動、(b) 熱帯対流圏界面の季節変化と年々変動などに着目している。
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今後の研究の推進方策 |
すでに4年半以上のデータの蓄積があるため、成層圏極渦の年々変動に伴う、成層圏・中間圏の乱流強度の変動を調べる。特に中間圏の乱流強度は、これまではロケット観測など限られたデータでしか調べることができなかったが、今後は中間圏の様々な時間スケールの現象と乱流強度との関係を研究できると考えられる。 北極の対流圏界面高度変動についての研究は結果がまとまりつつあり、来年度中には、投稿論文としてまとめられる見込みである。
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次年度使用額が生じた理由 |
統計的有意性を高めるために観測データの蓄積を待つ必要があり論文執筆開始の時期が遅れたこと、また、予定していたよりも論文執筆に時間がかかったため、次年度使用額が発生した。当該論文はすでに投稿済みであり、次年度の前半に、論文出版にかかる費用(投稿料・オープンアクセス料)として使用する予定である。
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