本年度においては、2021年5月18日に南極昭和基地のレーダーにより観測された大気重力波(以下、重力波)について、観測された水平風・温度の背景場の下で、高解像度モデルを用いた理想化数値シミュレーションを実施した。このシミュレーションにおいて、鉛直風擾乱の振幅や下部成層圏の北向き運動量の鉛直フラックスなど、観測された重力波の特徴がよく再現されていた。対流圏では、小さな海岸地形に沿ってShip-waveに似た特徴的な波状構造が現れていた。一方、成層圏では、背景風の鉛直変化に伴い、卓越する波の水平構造が大きく変化していた。臨界高度付近では、大きな渦度を持つ層が複数みられた。興味深いことに、レーダー観測においても、乱流エネルギー散逸率が大きな高度領域が複数層現れており、クリティカルレベル付近で、重力波の砕波が起きていることを示唆する。すなわち、本数値シミュレーションでは、重力波の砕波、及び、それに伴う重力波の水平構造の高度変化を再現することができた。さらに、この計算の中には、地表付近で発生した跳流やその風下領域での重力波生成が現れており、これらと観測データを比較することで、南極上空の大気現象の階層構造・上下結合が明らかになると期待される。 研究期間全体を通じ、(i) レーダーで観測される対流圏・成層圏・中間圏の乱流エネルギー散逸率や大気重力波の統計解析により、南極上空での乱流エネルギー散逸率について、季節変化・季節内変動を明らかにし、(ii) 対流圏界面高度に注目した研究により、数日スケール(対流圏界面漏斗現象)から数ヶ月程度(季節変化)の時間スケールの時間変動について、新たに導出した診断式に基づき、その変動要因を考察した。南極上空の自由大気中の乱流強度の様々な時間変動を明らかにし、それが対流圏界面付近において、特に特徴的な変動を示すことを明らかにすることができた。
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