研究課題/領域番号 |
19K14793
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
村田 浩太郎 静岡県立大学, その他部局等, 特別研究員 (30740104)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 微生物 / 氷晶核 / 雲 / 富士山 |
研究実績の概要 |
上空で氷の結晶核としてはたらく微生物の観測を目的として、コールドプレート装置の構築と7~8月の富士山頂での大気観測を実施した。まず、コールドプレート装置はアメリカ大気海洋庁の研究者が構築したものをベースにし、クリーンベンチの設置とポリスチレンによる断熱を施すことによって若干の改良を試みた。改良装置では、超純水を用いた場合にオリジナル装置よりも理論値に近い値での凍結結果を得ることができ、広い温度範囲における大気中氷晶核数の計測が可能であることが確認された。構築したコールドプレートを用いて、2019年7月14日から8月26日にかけて富士山頂にて大気中の氷晶核計測のためのエアロゾル粒子のフィルター採取を実施した。エアロゾル粒子を採取したフィルターの半分を氷晶核の観測、残りの半分を16S rRNA遺伝子解析による細菌群集の推定に利用した。氷晶核は最高温で-7℃で活性をもつものが検出され、最低温は装置の冷却下限かつ水の凍結温度に近い-34℃付近のものが検出された。富士山頂では1970年代にも氷晶核数の観測がなされているが、本研究においても同じ活性化温度において同程度の濃度が観測された。このことから、自然由来の鉱物などが多いと予想される氷晶核数は50年前と比較しても大きくは変化していない可能性が示された。観測された氷晶核のうち、生物起源と思われる氷晶核は加熱処理によって消失するかを基準として判別した。その結果、-10℃より高い温度で活性をもつ氷晶核の50%~100%が熱で消失した。すなわち、高温で活性化する効率の良い氷晶核は富士山頂においても存在し、最低でも過半数は生物起源であることが示唆された。このとき、遺伝子解析から大気中には土壌由来の細菌群が多いことがわかり、土壌起源の微生物が氷晶核として存在している可能性が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コールドプレート装置の構築が完了し、富士山頂で生物起源の氷晶核と思われるものの存在を確認することができたため。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は新型コロナウイルスの影響によって富士山頂での観測ができないため、途中までの山道における土壌や砂、礫を採取し、そこに含まれている微生物と鉱物氷晶核の同定を実施する予定で、現在試料採取のための許可申請の手続きを実施中である。昨年度の観測から、山頂大気中に土壌微生物群が多く出現するときに生物起源と思われる高温活性の氷晶核が観測されたことから、富士山の山体由来の鉱物ダスト・微生物なのか、あるいは、自由対流圏を長距離輸送された鉱物ダスト・微生物なのかを特定し、両者を区別して計測する方法の検討・確立を重点的に実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
微生物細胞を分離するマイクロ流路を用いた装置の購入を検討していたが、当初の試算よりコストがかかり、製造会社・納入業者とのテスト実施のスケジュールがつけられなかったため初年度での購入を先送りにすることにした。今後の使用計画としては、同装置を再度購入するか検討のために打ち合わせを実施する予定である。一方で、微生物細胞の分離にも磁気ビーズを用いたものや、クロマトグラフィーなど、さらに簡便で安価なものも近年開発されているので、代替方法の採用も検討し、そのための装置や試薬に使用することも考えている。
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