大気科学において、微生物の凍結核あるいは氷晶核としてのはたらきが雲や降水に影響するという仮説がある。様々な観測結果から仮説を裏付けるデータが得られている一方で、上空における生物起源凍結核の全体像は明らかになっていない。本研究では、世界有数の高所観測所である富士山測候所において、雲中および大気中の生物起源凍結核の実態を解明することを目的とした。2021年度においては2年ぶりの山頂観測を実施することができた。昼夜を厳密に分けた試料採取を48日にわたって実施し、山頂大気における昼夜の変動を明らかにすることができた。日中の方が明らかに高濃度であったことから、谷風のような日中特有の風に起因する火山堆積物の巻き上げが原因として考えられた。表層堆積物から作製した微粒子の凍結核形成能力を計測したところ、火山堆積物粒子が山頂大気中凍結核濃度を説明し得ることが明らかとなった。一方で、堆積物だけでは説明できない部分として、活性化温度の高い(効率的にはたらく)凍結核の存在が確認された。その試料に対して熱処理を加えることで生物起源凍結核の画分を推定したところ、大半が生物起源であることが示唆された。すなわち、少なくとも夏季の富士山周辺の上空においては、火山堆積物とそれと共に存在する生物起源粒子が凍結核の発生源となっている可能性が示された。ただし、本研究は夏季だけの観測結果であり、他の季節では黄砂などの影響が強くなることが過去に報告されている。今後、他の季節における上空観測の可能性を探ることで、上空における生物起源凍結核の地域的あるいは越境的な分布や起源を明らかにできると期待され、今後の観測研究の足掛かりを得ることができた。
|