研究課題/領域番号 |
19K14794
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研究機関 | 立正大学 |
研究代表者 |
平田 英隆 立正大学, データサイエンス学部, 専任講師 (30808499)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 温帯低気圧 / 暴風 / 気象災害 |
研究実績の概要 |
今年度は、最新の再解析データ(ERA5)と領域雲解像モデルを用いた高解像度の数値実験を利用して、2020年3月に八戸で発生した温帯低気圧に伴う暴風イベントの発生メカニズムについて調査を進めた。特に、前年度の調査によって明らかになった暴風イベントの前兆現象である対流圏中層の暴風域の形成過程およびこの暴風域を地表付近へ輸送する下降流の形成過程に焦点を当てて解析を行った。 大気の3次元構造の解析から、対流圏中層で風速が増大する際には対流圏界面の折れ込みと呼ばれる現象が生じていることがわかった。この現象が生じる際に、対流圏内では渦の伸長が生じ、低気圧性渦の強化、つまり風速の増大が生じる。注目している対流圏中層の風速の強化と対流圏界面の折れ込みの発生タイミングが一致することから、風速強化には対流圏界面の折れ込みが関与していることが示唆された。 さらに、暴風域を地表付近へ輸送する下降流の構造を分析したところ、温帯低気圧に伴う寒気移流が関係していることが見いだされた。下降流が強まるときに、低気圧の中心は北海道西方の日本海上に位置し、八戸西側の山岳域では低気圧に伴う西風が寒気を移流する構造になっていた。その寒気が、八戸西側の山岳域をちょうど超える際に、山岳の風下で下降流が発生することがわかった。これは、密度の大きな寒気が山岳風下で滑降することによって、下降流が強化したと解釈できる。 数値実験を活用して、山岳域の存在が下降流の形成に寄与したかどうかも確認した。その結果、山岳域が存在しない場合は下降流の形成はみられず、寒気移流に加えて山岳の存在も下降流の形成において重要な働きをすることが裏付けられた。 これらの結果は、気象学会秋季大会等で研究発表を行った。さらに、研究成果を論文としてまとめて、学術誌へ投稿する準備を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題において、温帯低気圧に伴う暴風の統計調査を実施し、日本付近の温帯低気圧に伴う暴風の様々な特性や暴風をもたらす低気圧の特徴を明らかにすることができた。このような研究を通じて、日本付近の温帯低気圧に伴う暴風の特性に関する包括的な理解が進んだ。この成果をまとめた学術論文はすでに出版されている。 さらに、特徴的な構造が見られた八戸の暴風イベントに注目し、その詳細なメカニズムについても調査を進めた。その結果、低気圧に伴う3次元的な大気構造と山岳が関与することで暴風が発生するという、これまでの研究では解明されていなかった暴風発生プロセスが明らかになってきた。このように、事例解析からも日本付近の温帯低気圧に伴う暴風特性の理解が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
ここまでの研究によって、2020年3月に八戸で発生した温帯低気圧に伴う暴風イベントの構造や発生メカニズムについて詳細を明らかにすることができた。今後は、これまでに得られた成果を論文としてまとめて、学術誌へ投稿予定する作業を進める。また、学会等で研究成果の発表を行う。また、初期値を変えた数値実験を複数行うことで、数値実験の結果の信頼性を確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
一部、参加を予定していた国際ワークショップ等の開催が中止となり、関連する旅費等を利用できていない状況である。また、論文の投稿が遅延しているため、論文掲載費を利用できていない状況である。繰り越しする費用は今後開催される学会等への参加費および論文掲載費に使用する予定である。
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