研究課題/領域番号 |
19K14795
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
道端 拓朗 九州大学, 応用力学研究所, 助教 (30834395)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | エアロゾル・雲相互作用 / 全球気候モデル / 降水 / 放射強制力 / 微物理 |
研究実績の概要 |
全球気候モデルが苦手とする雲・降水過程の中でも、雲氷・降雪粒子の成長過程の表現は特に不確実性の大きいプロセスの一つである。今年度は、課題代表者がこれまでに開発を推進してきた降雨・降雪を陽に予報するスキームを用いて、微物理過程の表現手法に内存するパラメータの不確実性の感度を調査した。 不確実性をもたらす代表的なパラメータは、雲氷から降雪粒子に成長する代表時間スケール、雲氷と降雪粒子のサイズの閾値、降雪の粒径分布関数、Bergeron-Findeisenプロセスに伴う水蒸気拡散の強さ、aggregationおよびrimingに伴う効率係数など様々である。これらを不確実性の範囲内で摂動させることでそれぞれの感度を調査し、大気中の凝結生成物および放射収支が衛星観測による全球統計値と整合的であるように最適化を行った。また、質量や気温などの人為的な閾値による調整を撤廃することで、雲氷から降雪への成長がより連続的に生じるよう調整を行なった。 これらにより、特に上層雲での雲氷分布の改善につながり、雲量の再現性に顕著な改善が見られた。雲量の評価には、衛星観測シミュレータを用いて衛星観測と比較を行い、改良前と比較して8%程度の雲量増加につながり、観測に近づけることが可能となった。 さらに、改良したモデルを用いて人為起源エアロゾルによる有効放射強制力を見積もったところ、従来型モデルで過大に評価していた負の放射強制力が大幅に緩和され、20世紀の気温トレンドを再現するために要請される放射強制力の不確実性幅の範囲を満たすシミュレーションが可能となった。これは、降雪の放射効果が長波放射による温室効果の寄与を増強することに加え、降雪と下層の雲水とのrimingが短波の放射強制力を弱めることに起因することがわかった。これらは従来型モデルからは得られなかった新しい成果であり、国際学術誌に投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
開発当初の降水予報型スキームは、雲氷および降雪の微物理過程に起因する様々なパラメータへの感度の調査ができていなかったことで、本来中高緯度の下層にも存在するはずの雲氷が表現できておらず、降雪への成長が早いバイアスを抱えていた。それにより、観測と比較して雲量を大幅に過小評価するバイアスにつながっていた。 今年度は、モデルのパフォーマンスに大きな影響を与える様々なパラメータへの感度を検証し、不確実性の範囲内で最適なパラメータ設定を選択することができた。パラメータ調整は衛星観測による統計と整合的であるよう検討を重ね、気候モデルの共通バイアスの一つである雲量の過小評価バイアスを顕著に改善することができた。 一連のモデルの改良により、降雪がもたらすエアロゾル・雲相互作用の緩衝効果のメカニズムを明らかにすることができ、降雨・降雪を予報しない従来型モデルでは理解ができなかった新しいプロセスの発見につながるなど、研究開始前の期待以上の成果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
雲氷・降雪粒子の成長を表現する微物理プロセスのパラメータ調整を実施したことにより、観測と整合的なパフォーマンスを表現することが概ね可能となった。その一方で、降雨・降雪を予報しない従来型スキームと比較し大幅に計算コストが増加してしまった点は、長期間の気候変動予測の研究を実施する上で大きな障害となりうる。計算コストを多く占めているのは降雨・降雪粒子の落下過程を表現するプロセスであり、粒子の落下速度が大きく鉛直分解能も細かい大気境界層付近で短い時間ステップがCFL条件により要求されるためであることがわかっている。この問題は、将来高解像度化がさらに進むことを考えると問題がさらに顕在化することが予想されるため、この問題に優先的に対処する必要がある。 来年度以降は、この問題を解決するために現状の降水落下スキームを見直し、低い計算コストで安定して計算可能なラグランジュスキームの実装を行う予定である。降水落下スキームの変更に伴い、特に大気下層での水蒸気分布や降水強度の変化などが見込まれるため、スキームの更新に伴うモデルの結果への感度を特に注視して開発を進める。それと同時に、現在非常に簡素化しているサブグリッドの降水の取り扱いも、併せて見直しを行う。それにより、低い計算コストでありながら、降水の頻度や強度といった素過程の情報が観測による拘束条件と整合的なモデル開発を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
大規模数値計算に伴うシミュレーション結果の保存のためのハードディスクの購入を予定していたが、当該年度後半にかけて大型計算機システムがメンテナンスにより長期休止となったため、当初予定していたハードディスクの購入が不要になり未使用額が生じた。 次年度以降に、ハードディスクや解析ソフトウェアなどの物品費、および成果発表に関わる経費に使用する予定である。
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