研究課題/領域番号 |
19K14797
|
研究機関 | 気象庁気象研究所 |
研究代表者 |
嶋田 宇大 気象庁気象研究所, 台風・災害気象研究部, 主任研究官 (60750651)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 台風の急発達 / 対流活動 |
研究実績の概要 |
本研究は、長期衛星データのクラスター解析等を通じて急発達の多様性を見出し、どのような特徴をなす対流活動が急発達に好都合か調べ、急発達の前兆現象を解明することを目的としている。2年目は、(1)発達ハリケーンにおける環境場条件と対流活動の特徴及び対流活動のプロセスに関する研究、(2)雷活動と強度変化の関係調査、及び(3)衛星で観測可能な対流情報を見出すことを目標とした。 (1)については、ハリケーン環境場データと米国の航空機搭載レーダー観測データを用いて調査した。その結果、ハリケーン強度の発達事例の環境場条件は定常事例のそれと平均的にはほとんど変わらなかった一方、標準偏差は定常事例の方が大きく、定常事例は発達に不都合な環境場条件を発達事例より多く含んでいた。対流活動について調査すると、発達事例はアップシアー左象限(USL)で定常事例より強い上昇流を持つ傾向にあることがわかった。発達事例は対流圏下層に定常事例より強いインフローを持ち、ダウンシアー側のRMW内側では2-8m/sの中程度の上昇流の頻度が定常事例より多かった。そして、これらの対流活動の最終段階として、USLで上層対流の活発化につながっていた。 (2)については、米国の静止気象衛星で観測された過去3年の雷データを用いて熱帯低気圧の雷活動と強度変化の関係について調査した。強度85-140ktの発達事例と定常事例を比較した結果、発達事例では赤外衛星の最低輝度温度半径の内側領域でflash発生数が多い傾向だった。 (3)については、急発達につながる対流現象と急発達につながらない対流現象を衛星観測データから診断する方法を見出すために行った。静止気象衛星データを調査した結果、(1)の調査で見出されたUSLで活発な対流活動は、赤外衛星画像でも十分に見出せることがわかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年目は、航空機観測データや雷データの解析など、急発達につながる対流現象の解明研究を計画通り進めることができた。特に航空機搭載レーダーデータでハリケーン内部の詳細な構造を解析できた意義は大きい。これは今後数値シミュレーションや衛星シミュレータを用いて、対流活動と熱帯低気圧内部の物理プロセスを関係づける上で大きく役立つ。一方で、コロナに伴う学会開催の延期により、研究進捗の観点から望ましい時期に学会発表ができず、論文執筆の遅れにもつながった。そのため、3年目において学会発表と研究成果の論文執筆を急ぐ必要がある。以上の状況から、研究はおおむね順調に進展していると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
3年目の計画 前年度に得られた発達事例における対流活動の特徴に関する知見を踏まえ、今後は、シミュレーションデータと衛星シミュレータを用いて、観測データでは見出し切れなかった物理的なプロセス、熱力学場の特徴に関して解明を進める。さらに鉛直シアーが比較的大きな急発達事例がどのような特徴を持つのかについても調査を進める。全体として、統計的な関係性とともに、その関係性を物理的に説明づけられるよう研究を進める。また研究の最終年度として、研究成果の学会発表及び論文の執筆を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初の使用見積額と比べ、購入期間を延長したことに伴い雷データ購入費で11万円、学会参加費で4万円の支出増が生じた。一方、予定していた論文の投稿を今年度に変更したため、論文投稿費で88万円(97万円のうち)、英文校閲費で37万円は繰り越すこととし、またその他消耗品等で7万円の節約ができたため、次年度使用額が生じた。 今年度も、各種学会の現地開催が流動的なため、旅費への使用計画を立てない。代わりに繰り越し分の論文執筆に研究を集中させる。学会参加費に13万円、英文校閲費に28万円、論文出版費に124万円(繰り越し分2本に加え、新規論文で2本分)を計上する。その他データ保存用HDD等消耗品に32万円を計上する。
|