太陽活動の11年周期変動に対する地表気候の応答が数年遅れて顕在化する過程の詳細を明らかにすることを目指し、いくつかの研究作業を行った。 まず、応答の顕著な北大西洋振動(NAO)について、気象研究所地球システムモデル(MRI-ESM)による、太陽活動度の変化のみが外力強制として取り入れられた長期間積分データを解析した。その結果、NAO指数のピークが太陽紫外線放射指数のピークに対して2-4年ほど遅れていることが実際に確認できた。 ついで、紫外線指数に対して近年数年遅れてピークを示す傾向にある、高エネルギー粒子の降り込み(EPP)の効果に関する実験を行った。晩秋に顕著なEPPが起こった際の上空での化学組成変化とそれに伴う成層圏-対流圏結合変動の変調を、MRI-ESMによるアンサンブル実験によって確認したところ、EPPの効果は、上述のNAO傾向と符号としては整合的ではあるが、地表まで達するには十分とは言い難い大きさの偏差形成にとどまることがわかった。 そこで、大気海洋相互作用の効果に着目し、成層圏周極渦の極端変動による海洋循環駆動とそれによってもたらされる越年影響の調査を行った。直近のイベントを対象に、成層圏循環場を拘束したアンサンブル実験をMRI-ESMを用いて実施し、成層圏のイベントの影響で対流圏・地表・海洋に生じる偏差を追跡した。その結果、(太陽紫外線放射指数のピーク時に発現しやすい)冬季の極渦強化イベントの下方影響により、地表では正の北極振動(AO)およびNAOが卓越し、特に北大西洋亜表層の水温が有意に低下することが確かめられた。形成された水温偏差は、混合層の季節変化に伴い再出現し、翌冬の大気状態にも有意な影響(正のAO/NAO状態への偏向)をもたらすことも確かめられた。ここで示された過程は、遅延応答の素過程であると同時に、季節を越えた予測可能性をもたらす過程として期待できる。
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