研究課題/領域番号 |
19K14799
|
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
末木 健太 国立研究開発法人理化学研究所, 計算科学研究センター, 特別研究員 (50802980)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 積乱雲 / エントレインメント / E-CAPE / 鉛直シア |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、台風の温帯低気圧化 (温低化) に伴う竜巻の発生に焦点を当て、台風環境中で発生する積乱雲、積乱雲を親雲として生ずる竜巻に至る発生機構を理解し、竜巻の発生リスクの定量化することである。本年度は、台風近傍などを想定した様々な環境場で積乱雲を発生させる理想化数値実験を行い、積乱雲の特性の環境場依存性を調べた。数値実験では、環境場をコントロールする代表的な指標 (風速・気温・水蒸気の鉛直プロファイルに関する指標) に関して大規模なパラメータスイープ実験を実施し、積乱雲の特性の環境場依存性の定量化を試みた。パラメータスイープ実験では、水平解像度500mで15600通りの環境場、水平解像度200mで2748通りの環境場で積乱雲のシミュレーションを行い、降水を伴う雲の発生・発達過程が、環境場の違いによって大きく変化することを確かめた。特に、積乱雲に伴う総降水量の環境場依存性は、エントレインメント (Entrainment) を考慮したCAPE (E-CAPE) によって良く説明されることが示された。また、特にE-CAPEが大きな環境場中では、鉛直シアの大きな風速プロファイルが総降水量の増大に寄与すること、同じ気温・水蒸気プロファイルであっても(1/400)#/s程度の鉛直シアのある環境風が加わると、総降水量が平均で5倍程度大きくなることが明らかとなった。一連の結果については、日本気象学会2019年度秋季大会や第10回シビアストームに関するヨーロッパ会議で発表を行っている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定では、過去の温低化しつつ日本に接近・上陸した台風を抽出し、大気場の客観解析データを用いた統計解析を行う予定であったが、大規模な数値実験を実施可能な計算資源を本年度有していたため、積乱雲の環境場依存性を調べる大規模な数値実験を行うこととした。実験では、環境場をコントロールする7つのパラメータについて、解像度500mでのパラメータスイープ実験を行った:地表面気温 (4通り)、気温の逓減率 (5通り)、対流圏界面高度 (3通り)、地表面相対湿度 (4通り)、水蒸気量がゼロになる高度 (5通り)、水平風速の鉛直変化率 (鉛直シア) (4通り)、風速が最大となる高度 (4通り):計19200通り (= 4 x 5 x 3 x 4 x 5 x 4 x 4)。この結果、同じ気温・水蒸気プロファイルでも、強い鉛直シアのある環境場はそうでない環境場に比べ、総降水量が5倍程度大きくなることが分かった。また、積乱雲による総降水量は、環境場のE-CAPEと高い相関があることが分かった。さらに、雲の発生・発達への影響が特に大きい環境場の要素に着目した2748通りの高解像度実験(水平格子間隔200m)も実施した。本年度はまず、積乱雲の特性を示す基本的な指標である総降水量に着目したが、竜巻の発生とより関連の高いメソ渦と環境場との関係について、詳細に調べる必要がある。この点に関して、現在のところ十分に明らかとはなっていないため、やや遅れていると評価する。
|
今後の研究の推進方策 |
第一に、初年度に実施したパラメータスイープ実験結果の解析を進め、積乱雲に伴う突風の発生率の環境場依存性、積乱雲内部のメソスケール渦 (メソサイクロン) の発生の有無などについて調べる。積乱雲の環境場依存性、竜巻の発生リスクが高い環境場について系統的に理解し、学術雑誌への投稿論文としてまとめる。また、初年度に実施予定であった、温低化しつつ日本に接近・上陸した台風の統計解析に関して、温低化に伴って竜巻が生じた台風とそれ以外の台風を比較し、両者の統計的な違いを明らかにする。スーパーセル内部の回転の強さの目安となる「ストームに相対的な環境場のヘリシティ (Storm-Relative Environmental Helicity:SREH)」やE-CAPEなどの大気場の指標に着目し、温低化の構造変化に伴って竜巻の発生に有利な環境場がどのように生成されるのか明らかにする。さらに、積乱雲内部のメソサイクロンを解像可能な1kmの水平格子間隔、台風とジェット気流の相互作用を表現するのに必要な東西4000km×南北2000km程度の計算領域での、台風の温低化を再現する理想化数値実験を実施する。実験では温低化する台風周辺で生じたメソサイクロンをトラッキングし、竜巻を生ずるリスクの高い積乱雲の発生位置の分布などを調べる。客観解析データを用いたデータ解析の結果も参考に、台風強度やジェット気流の強さを、竜巻が生じた事例に特有の範囲内で変化させる感度実験を行い、大規模場 (台風及びジェット気流) の状況に応じたメソサイクロンの発生頻度や強度の違いを系統的に調べる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究がやや遅れたため論文の投稿に至らず、英文校正料や論文投稿料を使用しなかった。次年度での論文投稿時に当該助成金を使用する予定である。
|