研究課題/領域番号 |
19K14801
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
澁谷 亮輔 東京大学, 大気海洋研究所, 特任研究員 (90818238)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 熱帯季節内振動 / 高解像度全球大気モデル / 予測可能性 / 成層圏 |
研究実績の概要 |
本研究は、2週間~1ヶ月程度の時間スケールを持つ熱帯季節内振動現象 (e.g., マッデン・ジュリアン振動; MJO)について、高解像度数値モデルによる成層圏準二年周期振動 (QBO)の精緻な再現を通じた予測可能性の延伸の可能性を探ることを目的としている。使用する高解像度非静力学大気モデル (NICAM)は世界に先駆けてMJOの約一か月先までの予測に成功した実績を持つが、その一方で熱帯季節内振動現象の予測スキルの初期位相依存性等の精緻な統計的検証は為されてこなかった。そこで、研究初年度である2019年度は、開発する成層圏解像版NICAMの比較対象となる通常版NICAMによる予測性能評価のための解析を行った。 成層圏を粗く解像する鉛直40層かつ水平一様14 km解像度のNICAMを用いた熱帯季節内振動現象の予測実験データとして、2007年から2012年の8月の各日を初期時刻として30日間の積分を行ったデータを解析した。実験の総アンサンブルメンバー数は186、延べ積分日数は5580日であり、統計的に十分な事例数を持った解析を行うことが出来た。 熱帯季節内振動の予測スコアを評価したところ、通常版NICAMは各国の現業気象予測センターに比肩しうる精度で統計的に熱帯季節内振動を予測可能であることが示された。ここで、熱帯季節内振動の予測スコアの位相・振幅依存性について解析する新たな手法を開発した。開発した手法は成層圏解像版NICAMの予測スコアの評価にも応用できるものである。詳しい解析の結果、NICAMの予測スコアは初期位相に大きく依存せず高い値を示す一方、振幅については対流中心がインド洋上にある位相の時、観測よりも早く振幅が減衰してしまうことが分かった。これはNICAMがインド洋西部において背景場の鉛直積算水蒸気量が多いバイアスとの関連が考えられることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度の第一の目的は、熱帯季節内振動およびQBOを再現する最適な中層大気NICAMの実験設定について検証を行うことであった。本来、通常版NICAMによる予測可能性の検証は次年度に行う計画であったが、最適な数値実験設定を検証する途上で、NICAMの基本性能を統計的に把握することが重要であると考え、こちらを先に行うべきであるという判断に至った。解析の結果、水平解像度14 kmのNICAMによる熱帯季節内振動現象の統計的予測スキルが各国の現業気象予測センターに比肩しうる精度であったことは、本研究において計算負荷が比較的軽い水平解像度 14km設定の採用に大きな示唆を与えるものであった。 2019年度中に十分なサンプル数を用いた統計的検証を行えたこと、および研究実績の概要に示した予測スコアの新たな評価手法を開発したことについては当初の計画以上に進展したと言える。これらの結果は国際学術誌に2020年度中に投稿予定である。一方、初年度のもう一つの目的であった成層圏高解像度版NICAMを用いた予測実験の実施については、初年度中に明らかになった結果を踏まえて実験設定の再検討を行い、次年度中に行う予定に変更することとした。上記研究の進展を踏まえ、現在までの進捗状況はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
まず2020年度について、2019年度中に明らかになったNICAMによる熱帯季節内振動現象の統計的予測スキル及びバイアスの解析手法について論文としてまとめ、国際誌に投稿する予定である。さらに2020年度には、2019年度中の解析の結果を踏まえて数値実験設定を検討し、初年度に行う予定であった成層圏高解像度版NICAMを用いた予測実験を実施する。成層圏高解像度版NICAM、通常版NICAMの予測スキルの定量的比較には、2019年度中に開発した予測手法を利用する予定である。また投稿論文として発表する結果は、同年度中に行う実験結果の良い比較対象となることが期待される。今後は実施した数値実験のデータを用いて、当初の予定通り、統計的解析を通じて熱帯季節内振動の予測性能に対する成層圏鉛直高解像度化の効果を定量的に検証する。さらに、QBO解像によってMJO予測可能性の延伸が起きる力学的メカニズムについても議論を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
若手研究 研究計画調書を提出した平成30年10月時点では国立研究開発法人 海洋研究開発機構にポストドクトラル研究員として所属しており、2019年度中の使用金額は所属チームの管理する解析サーバーに本研究に用いるデータ記憶装置を設置に充てられる予定であった。しかし、平成31年7月から現在所属している東京大学 大気海洋研究所に異動することとなり、所属している研究グループが管理する解析サーバーには、2019年度中に購入を予定していた計2つの48TB大容量ディスク装置の設置が難しいことが判明した。これには無停電電源装置への接続の問題やサーバー室の床の荷重の問題など、設置に関する条件が大きく異なったことが原因である。2019年度の研究実施計画の変更もあり数値実験を本格的に開始する時期が2020年度中となったため、これらの大容量ディスク装置の購入費用の使用は次年度使用額として2020年度に繰り越すこととなった。なお、所属する研究グループの管理する解析サーバーの今後の状態に依存し、実験データの管理を目的とした装置の購入内容が変更になる可能性がある。
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