海洋研究開発機構で独自に開発されたデータ同化システムや大気大循環予報モデルを使用し、両極で取得した高層気象観測データが天気予報の精度に与える影響を調べる予報可能性研究を実施した。また、各半球の中緯度の予報精度を向上させるのに効率の良い南極・北極領域を特定することができた。 ①北極の観測と北半球の天気予報精度に関する研究:海洋研究開発機構の海洋地球研究船「みらい」が太平洋側北極海で取得したラジオゾンデによる高層気象観測データを中心にした解析を実施した。太平洋側北極海での観測は、アメリカに大きな被害をもたらす大西洋のハリケーンの予報精度を向上させるが、上空の強い風の影響を受けるハリケーンのみに影響することがわかった。また、台風も上空の強い風の影響を受ける場合、北極での高層気象観測データの影響を受ける可能性を明らかにした。これらの成果により、観測の影響は上空の強い風により風下側に伝播することから、太平洋側北極海での観測はアメリカや欧州、大西洋側北極海での観測は日本などのアジア領域の天気予報精度に影響することがわかった。 ②南極の観測と南半球の天気予報精度に関する研究:日本の南極観測船(砕氷艦)「しらせ」や南極大陸観測所「ドームふじ」で夏季に取得した高層気象観測データや日本の昭和基地に設置されているレーダーにより取得された高層風速データに着目した。これらの観測を実施することで、天気予報に使用される初期大気状態が改善され、南極大陸やオーストラリアに接近する低気圧の風速や進路予報が改善されることがわかった。南半球の予報精度を向上させる効率の良い領域は、高層気象観測の頻度や観測点の少ない南極大陸内部や南大洋上であることがわかった。日本の昭和基地周辺では、天気予報の精度を悪化させる不確定性が大きくなる時期があり、高頻度に観測できるレーダー観測が天気予報改善に有効な手段であることがわかった。
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