現在の多くの全球植生動態モデルでは、植物集団の空間構造を考慮せず、すなわち葉群や植物の空間配置が水平に均質という仮定を置くことで、太陽光をめぐる植物間の競争を計算し、その結果として植物の成長や枯死、そして植物集団のダイナミクスをシミュレーションしている。しかし、このような仮定を置いたモデルでは、植物サイズ頻度分布などの植物集団内構造のダイナミクスを上手く再現できないという問題がある。一方、このような仮定を置かず植物集団の空間構造を考慮したモデル(空間明示個体ベースモデル)も開発されているが、シミュレートする植物個体数の増大に伴い大きな計算コストが必要になり、全球植生動態モデルが対象とする広域のシミュレーションには適さないという問題がある。そこで、本研究では植物集団の空間構造を考慮しながらも低計算コストな植物集団のシミュレーションモデルと、そのモデルに導入可能な葉群の三次元空間配置を考慮した光競争・成長モデルの開発を目的とした。 2020年度は昨年度に開発した植物集団のシミュレーションモデルと光競争・成長モデルの妥当性を検証するために、空間モーメントモデルの出力結果を、空間明示個体ベースモデルの出力結果と比較した。空間モーメントモデルと空間明示個体ベースモデルは使用されている成長や枯死モデルなどのサブモデルが共通の場合、植物サイズ分布などの計算結果は同じになることが先行研究で理論的に明らかになっている。この比較を通して開発したモデルの妥当性を評価し葉の三次元配置の近似スキームの改良を行った。
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