研究実績の概要 |
古気候学復元において、試料の年代決定は重要である。U/Th年代測定法は、50万年前までの試料について年代を高精度に決定できる有効な手法であるが、一般的には貝試料を使用したU/Th年代測定は難しいと考えられていた。しかし、近年になり、貝の種によっては可能であるとの報告されている。そこで、本研究課題では、日本周辺に生息する貝類のU/Th年代測定可能な種の選定指針の確立を目的とし、日本に幅広く生息する貝試料中のUおよびTh濃度分布を捉えることを目標としている。 昨年度までに、東京大学大気海洋研究所が保有するレーザーアブレーション誘導結合プラズマ試料分析装置を用いて貝殻試料の高解像度U/Ca比測定を行った結果、サザエの蓋やシャコガイは、U濃度がサンゴ骨格と比較して1/100から1/10低く、さらに貝殻内でUが偏在していることが明らかとなった。今年度はさらに貝試料のサンプリングおよび貝殻中のU, Th濃度測定を行う予定であったが、新型コロナウイルスの影響のため、外部研究機関での共同研究や野外調査が困難であった。そこで自身が所属する立正大学地球環境科学部が保有する誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-OES)および誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)を使用した分析測定手法について検討した。ICP-OESではSr, Ca, Mgの3元素、ICP-MSではTh, Uの2元素について、地球化学標準物質JCp-1とJCt-1を用いて繰り返し測定を行った結果、Sr, Ca, Uについては十分な測定精度があることを確認できたが、MgとThは引き続き測定手法を検討する必要があることが明らかとなった。また、年度末に東京大学大気海洋研究所のクリーンルーム実験室を用いて、貝試料U/Th年代測定のための化学前処理準備を行なった。試料の測定は来年度に行う予定である。
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