研究実績の概要 |
石炭の主要な構成成分の一つである『ビトリナイト』は、主に植物の木質部に由来する有機物である。ビトリナイトは、堆積岩中にも普遍的に存在し、岩石の経験温度の上昇に伴い、その光学反射率(ビトリナイト反射率:VR)は反応速度論的に変化する。しかしながら、炭化水素生成能力(Hydrogen Index:HI)や水素分の高い石炭や有機質泥岩に含まれるビトリナイトは、既存の反応速度論から推定される値に比べて、低いVR値を示す。このようなビトリナイトは、『抑圧ビトリナイト』と呼ばれている。新生代石炭は、HI値や水素分が高く、しばしば抑圧ビトリナイトの存在が確認されており、既存の反応速度論では、経験温度(最高被熱温度)を的確に推定出来ていない可能性がある。そこで本研究は、新生代石炭の加熱実験に基づき、HI値や水素分がVR値の変化速度に及ぼす影響を評価し、新生代石炭に適した反応速度論を構築することによって、新生代地質体の最高被熱温度をより的確に推定することを目的としている。 今年度は、新生代の中でも石炭形成が特に進んだ時代である始新世の石炭のVR値と、反射率変化に影響を及ぼすパラメータと考えられるHI値、元素組成(C,H,N,S,O)等の測定結果を解析し、実験目的に最適な試料の選定を進めた。また、茨城県北部の大子町に分布する新第三系の調査によって、未熟成な中新世の石炭試料を多数採取することが出来、加熱実験の出発物質として評価を進めている。加熱実験の出発物質に用いる石炭の基礎データや解析結果の一部は、国内学会及び国際会議で報告すると共に、国際学術誌に成果をまとめ、掲載された。
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