研究課題/領域番号 |
19K14807
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
高橋 幸士 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 研究員 (80762252)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ビトリナイト反射率 / 抑圧ビトリナイト / 最高被熱温度 / 石炭 / 新生代 / 熱分解実験 |
研究実績の概要 |
石炭の主要な構成成分である『ビトリナイト』の光学反射率(ビトリナイト反射率:VRr)は反応速度論的に変化するが、炭化水素生成能力(Hydrogen Index:HI)や水素分の高い石炭及び有機質泥岩中のビトリナイトは、既存の反応速度式から算出される理論値に比べて、低いVRr値を示す(抑圧現象)。このようなビトリナイトは、『抑圧ビトリナイト』と呼ばれており、石炭の中でもHI値や水素分が高い傾向を示す新生代石炭において、よく確認される。本研究は、石炭の熱分解実験に基づき、HI値や水素分がVRr値の変化に関する反応速度論に及ぼす影響を評価することによって、新生代地質体の最高被熱温度をより的確に推定することを目指している。今年度は、主に以下の研究を進めた。 (1) 石炭の熱分解実験: 古第三紀石狩層群幾春別層から採取された石炭試料(HI=300程度)の等温・閉鎖系熱分解実験を実施し、VRr値の変化を検証した(温度:250-365度、時間:3-720時間)。実験で得られた試料のVRr値は、加熱条件と既存の反応速度式に基づく理論値に比べて顕著に低い傾向を示した。既存の反応速度式は、HI=130を示す石炭の熱分解実験結果に基づいており、理論値と本研究の測定値の違いは、HI値が抑圧現象の程度と密接に関係していることを示唆している。 (2) 茨城県大子地域試料の分析: 2019年度に採取した茨城県大子地域試料のロックエバル分析、VRr測定、鏡下観察を実施した。その結果、幾つかの試料は、風化の影響がほとんどなく、さらにHI<100の未熟成な試料であったことから、(1)の結果と比較するための熱分解実験の出発物質候補として有用であることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では、HIの異なる複数の石炭の熱分解実験をほぼ完了する予定であったが、測定試料中にVRr測定に適した組織(コロテリナイト等)が想定以上に少なく、鏡下観察やVRr測定に時間を要した。また、新型コロナウイルスの影響や、反射率測定試料を作成するための機材の不具合等が重なり、実験や測定に遅れが生じたため。
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今後の研究の推進方策 |
石炭の中では最もHIが高い部類(HI=400-450)と、最も低い部類(HI=50-100)に入る試料を確保出来たため、それらの試料の熱分解実験を実施し、得られたVRr値に基づいて、HIがVRr値の変化に関する反応速度論に及ぼす影響を評価する。HIの高い試料は、測定に適した組織の存在度が少ないことが予想されるが、従来法よりもやや少ない測定点であっても、1試料当たりのVRr値を十分な精度で測定可能であることも確認出来つつあるため、測定値や精度、分析ヒストグラムを確認しながら効率的な測定を進める。また、実験結果に基づいて得られた反応速度式やパラメータを新生代堆積盆データに応用することで、その妥当性を検証し、必要に応じて追加実験及び再解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
熱分解実験及びVRr測定の進捗が遅れており、実験に要する消耗品や試薬類の購入機会が想定していたよりも少なかったため。その分、2021年度の実験及び測定に要する消耗品や試薬類の購入費用に充てる予定である。
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