主に木質部由来の有機物である『ビトリナイト』は、経験温度の上昇に伴い、その光学反射率(ビトリナイト反射率:VRr (%)) が反応速度論的に増加する。しかしながら、先新生代石炭に比べて水素分に富む新生代石炭中のビトリナイトは、しばしば反射率の変化が遅くなる(抑圧現象)。本研究は、石炭の熱分解実験に基づいて、炭化水素生成能力(Hydrogen Index:HI)や水素分がVRr値の反応速度論的な変化に及ぼす影響を評価し、VRr値から新生代地質体の最高被熱温度をより的確に推定することを目的としている。
本研究計画では、まずVRr値やHI値等の分析結果に基づいて、本研究目的に適した試料の選定を進め、最終的に茨城県大子地域試料(HI=60程度)、前期白亜紀の海外の炭田試料(HI=90程度)、石狩炭田幾春別層試料(HI=300程度)、及び高島炭田試料(HI=410程度)の4試料を選定した。これらの試料を用いた等温・閉鎖系熱分解実験によって、VRr値の変化を比較したところ、HI値が同程度である大子地域試料と海外の炭田試料のVRr値の変化は類似するが、HI値が高い試料ほどVRr値の変化が遅くなる傾向を示した。最もHI値が高い高島炭田試料のVRr値の変化は、VRr=0.8%までは非常に遅く、他の試料との差は最大で0.5%に達した。一方、VRr=0.8%以降では、VRr値が急激に変化し、他の試料との差が次第に小さくなる傾向を示した。これらの結果に基づいてHI値がVRr値に及ぼす影響評価を進めると共に、試料の選定過程で取得した基礎データや、熱分解実験で得られたオイル様物質に関する知見を合わせ、成果の一部を公表した。本研究計画を通じて、VRr値から新生代地質体、特に石炭層の最高被熱温度を推定するための有用な知見を得ることが出来た。
|