研究課題/領域番号 |
19K14809
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高木 涼太 東北大学, 理学研究科, 助教 (10735963)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 日本海溝沈み込み帯 / S-net / プレート境界 / 地震波干渉法 / 表面波 |
研究実績の概要 |
沈み込み帯のプレート境界における滑り挙動の理解のためには、プレート境界周辺の地球内部構造の空間変化を明らかにすることが重要である。今年度は、日本海溝沈み込み帯浅部プレート境界付近の地震波速度構造推定のため、海域基盤観測網S-netで観測された3年分の常時微動データに地震波干渉法を適用し、対象領域内を伝播する表面波を抽出した。地震波干渉法解析では、S-net記録に含まれる観測点間でコヒーレントな2種類の機器ノイズを発見し、その特徴を整理した。さらに、機器ノイズを効果的に除去する新しい独自手法を開発・適用することで、ノイズ除去なしでは全く見えない周波数帯域0.03-0.1 Hzにおいて複数モードの表面波信号の抽出に成功した。機器ノイズ除去により抽出した周波数帯域の表面波は、海域の堆積層以深の地震発生層のS波速度に感度を持つため、浅部プレート境界周辺のS波速度構造推定のために非常に有用なデータである。また、開発した手法は同様の機器ノイズを含む国内外の地震観測データにも適用できるものであり、これまで捨てられていた周波数帯域まで地震波干渉法解析の適用範囲を拡大可能であることを示すことができた。 海域における表面波は、海水層および堆積層の影響で分散性が強く、複数のモードから構成される。また、沈み込み帯では構造の水平方向の変化が大きいため、表面波分散性の空間変化も大きい。そのため、これまでの解析手法では複数モードの表面波を有効活用できなかった。そこで、観測データに理論モデルをフィッティングすることで分散曲線を直接推定する手法を開発し、複数モードの表面波分散曲線をロバストに推定することに成功した。複数モードの表面波分散曲線が利用可能になったことで、対象領域における地震波速度構造を高い深さ分解能で推定できると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
機器ノイズのために地球内部構造推定への利用が困難であった周波数帯域までS-netデータが使用できることを示した。この周波数帯域はプレート境界周辺の構造に感度を持つため、本研究課題の目的のために有用なデータを得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
地震波干渉法により抽出した表面波信号を利用して日本海溝沈み込み帯浅部の3次元S波速度構造を推定する。その際、表面波複数モードの利用や有限周波数効果を取り入れることで、高分解能な構造推定を行う。高分解能S波速度構造とスロー地震・巨大地震の空間分布の対応関係を調査し、日本海溝沈み込み帯浅部プレート境界における滑り挙動を支配する要因を明らかにする。また、西南日本においてもスロースリップの広域検出を実施し、先行研究による地震波速度構造との対応関係を議論する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は新型コロナウイルス感染症のため、旅費での利用ができなかった。また、本課題において大規模な計算を必要とする解析手法を開発しており、その効率化のために、次年度に大型の計算機を購入する予定である。
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