沈み込み帯で発生するスロー地震を含む非地震性すべり現象およびプレート境界すべり様式の地域性を理解するためには、その発生場であるプレート境界周辺の地震波速度構造の解明が必要不可欠である。そこで、常時微動の相互相関解析に基づく表面波トモグラフィー手法を高度化し、表面波伝播が複雑な海域においても高分解能で3次元S波速度構造を推定できる手法を開発した。開発した手法は、マルチモード表面波を活用するとともに、有限周波数効果を考慮することで、従来の常時微動トモグラフィー手法よりも深さ方向・水平方向ともに構造推定の分解能を向上させた。この手法を海底地震観測網S-netに適用し、千島・日本海溝沈み込み帯における海底堆積層や付加堆積物および沈み込む海洋性地殻と考えられるプレート境界に沿った低速度領域のイメージングに成功した。推定した海底堆積層や付加堆積物の空間変化は人工地震探査による2次元P波速度構造とよく一致し、沈み込み帯浅部のS波速度構造をよく拘束できたと考えられる。また、プレート境界に沿ったS波速度はプレート走向方向に変化しており、2011年東北地方太平洋沖地震の大すべり域は高S波速度領域に位置することが明らかになった。一方で、微動発生域は主に低速度領域に位置しており、プレート境界付近の構造不均質とすべり様式の空間的な対応関係が示唆された。以上のように、新たな海域基盤観測網のデータの有効活用および解析手法の高度化により、巨大地震やスロー地震が発生するプレート境界周辺の3次元S波不均質構造の推定を実現した。
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