岩石中に普遍的に含まれる炭質物の結晶度は,簡便かつ大量に分析可能な点から,変成岩の温度指標として広く利用されている.一方で世界各地の変成帯で構築された炭質物の温度指標は,既存の変成鉱物を用いた地質温度計や熱モデリングの温度圧力条件から推定された経験則である.そこで申請者は野外地質調査と反応速度実験を組み合わせることで,低変成度堆積岩から高変成度堆積岩までの温度圧力条件を定量可能な炭質物の地質温度圧力速度計構築を目指し研究を実施した. 昨年度までの研究で,炭質物からグラファイトへ再結晶化する場合の高温高圧下での活性化体積を見積もることに成功した.この活性化体積とすでに我々が見積もった活性化エネルギーを組み合わせることで,一般的な沈み込み帯で観測される温度圧力条件で,有機物からグラファイトへの再結晶化過程をモデル化した.我々の実験結果から~40km付近から急激に有機物からグラファイトへの反応が進行し,65~80km付近で完全なグラファイトへ再結晶化することを明らかにした.つまり反応が急速に進行する40~80km 付近でCOH流体の発生や物性変化を起こす可能性を示した. 低温領域への炭質物温度計適用には,従来の可視光レーザーを用いた顕微ラマン分光法では蛍光の影響が大きく分析困難であることがわかった.そこで低温領域で比較指標とされるビトリナイト反射率とレーザー励起蛍光分析の同時分析可能なシステムを産総研で立ち上げた.今年度さらに新しい科研費を取得し,可視光レーザーに替わる新しいDUVレーザーを用いた顕微ラマン分光システムを立ち上げる.そして本科研費で立ち上げたシステムと組み合わせより詳細な炭質物分析環境を整える予定である.今回使用したシステムで低温領域まで温度計を外挿し,より利便性の高い炭質物温度計の構築を目指す.
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