研究実績の概要 |
これまでに宇宙航空研究開発機構(JAXA)施設内にある縦型二段式軽ガス銃の真空チャンバー内に簡易な落下装置を構築した. 本年は, この装置を用いて, 硅砂, 微小ガラスビーズ, 溶融アルミナといった異なる物性を持つ粉体層に対して1Gおよび模擬低重力下(0.04-0.07G)で高速度衝突実験を行い, 粉体標的の違いがクレーターサイズに与える影響を調べた. 硅砂標的ではクレーター直径は重力加速度の-0.17 乗に比例し,先行研究で得られた重力依存性と調和的であった. 一方, 微小ガラスビーズ標的と溶融アルミナ標的では,低重力下でのクレーターサイズは重力依存性を示さなかった. これは低重力下では標的の固着力の影響が卓越したためだと考えられる. また標的の種類により, クレーターサイズは異なり, ガラスビーズ,微小ガラスビーズ,硅砂,溶融アルミナの順にクレーター直径は小さくなった. 標的物性の何がクレーターサイズに影響しているかをより詳細に調べるため, これらの標的の空隙率を調べるとともに, 平行平板せん断試験を実施し, 標的の内部摩擦角と固着力を測定した.その結果, 標的の内部摩擦角や空隙率が影響を及ぼしている可能性があることがわかった.また, 微小ガラスビーズと溶融アルミナの実験結果から, 重力支配域でのクレーター形成と強度支配域のクレーター形成の遷移領域について, 重力と固着力の比を用いて結果を整理している.さらに, これらの結果について, 数値シミュレーションの結果と比較を行い議論を進めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は, 実験データの解釈をより正確に行うのに必要なデータ数を増やすことにしたため, 当初計画していた低重力下でのイジェクタ観測は行わなかった. 一方で, 平行平板せん断試験による標的物質の物性値と増えた高速衝突実験データから, 標的の内部摩擦角や空隙率, 固着力がクレーター形成に与える影響や, 既存のスケーリング則のパラメータとそれら物性値との関連性について調査することができた.
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今後の研究の推進方策 |
本年までに得た結果を整理し, 国際査読誌への投稿を行う.また, クレーター成長途中より詳細観測が行えるよう落下装置や観測システムの開発・改良を進めるとともに, より天然の物質に近い標的を用いた1G, 低重力下での高速衝突実験を進める.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は, 昨年度の実験データの解釈のため, 複数の標的を用いて, 必要となる実験データ数を増やすことに専念したため, 装置の改良や新規観測システムの構築を行わなかったため次年度使用額が生じた.生じた次年度使用額は, 低重力下でのクレーター成長過程をより詳細に観測するための観測システムの構築と, より小惑星表層の物質を模擬したシミュラントを購入して実験を進める計画を立てている.
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