研究課題/領域番号 |
19K14825
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
吉田 健太 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海域地震火山部門(火山・地球内部研究センター), 研究員 (80759910)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 集束イオンビーム / 地殻内流体 / 交代作用 / ダトー石 / 溶解再成長 |
研究実績の概要 |
2020年度はCOVID-19により実験装置利用に制約がかかるなかでの研究遂行となった.岩石中の微細組織を三次元的に捉え,それを他の分析(例えば年代測定値など)と関連付けて科学的知見に結びつける成果をいくつか挙げることが出来た. ひとつに,東北大学の岡本教授,Nurdiana氏(学生)と共同で実施した東北地方の変成岩中の反応帯の三次元組織解析結果をNurdiana et al. (2021 Lithos) として論文公表出来た.この成果では,苦鉄質の岩石中で反応に関与する鉱物(斜長石から曹長石・カリ長石への交代作用)の分布と,鉱物組織中に見られる微細な空隙の位置関係に注目して集束イオンビームを用いた3次元観察することで,地殻内流体活動の実態に関する知見を得た.具体的には,反応の前線での空隙形成と,空隙を通じての流体の浸潤が,反応進行を促進し,地殻内での物質移動に大きく寄与していることがわかった. また,地殻内流体活動の研究として,四国の変成岩中から,変成帯上昇期のBに富む流体活動の証拠を見出し,論文として公表した(Yoshida et al., 2021).流体活動を記録している岩石は,柘榴石が複雑に入り組んだパッチ状の組成累帯構造を示し,流体活動が関与する鉱物のフラクチャリングと,溶解再成長作用が確認できた.組織を丁寧に観察するなかで,Bに富む流体活動を示すダトー石を,エクロジャイト相に到達している高変成度から初めて見出し,周辺鉱物の地質温度圧力計の適用で形成条件を見積もることが出来た.本成果は,これまでの当該地域の流体研究(Yoshida et al., 2015)とも整合的で,岩体上昇期のB流体活動を今まで以上に強く示す結果となった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度はCOVID-19により研究者の所属機関が保有する実験装置でも利用に制約がかかる中での研究遂行となった.また,一部の外部機関(つくば・高エネルギー加速器研究機構など)での実験や,海外での地質調査は,緊急事態宣言下での出張制限の影響を強く受け,年間の限られた実験期間が一部ないし全部中止となることもあった.論文執筆などに時間を割く形で時間の有効活用は図ったが,本来予定していた実験時間・内容は確保できなかったといえる.
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今後の研究の推進方策 |
2021年度もCOVID-19の影響は避けられないため,外部機関を活用した研究計画は一部見直し,新たな地質調査も断念し,出張を介さない所属機関内で閉じる研究活動での代替を検討する. 幸い,所属機関での電子顕微鏡等装置の利用は,それほど大きな障害はなく実行可能の見通しである.2020年度に出来なかった天然試料の三次元組織に関する集束イオンビーム観察実験・データ取得を集中的に進め,学会(2022年度JpGUなど)と論文化での公表準備を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の影響で ①緊急事態宣言等による所属機関の出張制限のため外部機関での実験出張がとりやめになった ②海外渡航制限のため国際学会参加と海外地質調査の予定がとりやめになった ③各種学会のオンライン化に伴い出張がなくなったことと,2020年度は各学会がオンライン化を手探りで行う中で試験的に参加料を無料・格安に設定したこと などがあり,出張旅費と学会参加費がほとんどかからなかったことによる. また,同様に実験装置利用の制限があったことにより分析用消耗品等の購入も必要量が減り,次年度使用とすることになった.
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