研究課題
本年度は、より幅広い温度領域でカンラン石の溶解速度を推定するための実験遂行と並行して,実験データの詳細な解析を行った。水熱反応実験は,JAMSTECに設置されているチタン製のフロー式反応装置を用いて,最大300℃の温度条件下のものと,純水を2mL/minの速度で流通させることで行った。フロー式反応装置では実験中に反応後の溶液が常に回収可能である.回収した溶液のpHや溶存主要元素濃度の測定を行い,反応速度を決定した。また,実験終了後反応後の固相を回収し,SEMや熱重量測定を用いた分析を行った.結果,カンラン石の溶解反応と蛇紋石の析出反応がカップリングしていることがわかった.このことは,溶液中の主要元素濃度から決定された反応速度は,溶解析出反応の速度を観察していることを意味している.この結果を踏まえて,溶存主要元素濃度の時間変化をもとに,溶解析出反応のマスバランス計算を行った.このマスバランス計算からはカンラン石の溶解速度と蛇紋石の析出速度を個々に決定することはできなかったため,カンラン石の溶解速度に対する蛇紋石の析出速度の比の決定を試みた.結果,実験の初期段階では比が1より小さいが,時間がすすむにつれてその比が上昇し1より大きくなることがわかった.これにより,実験の初期段階では全体反応は蛇紋石の析出に律速されている一方で,後期段階ではカンラン石の溶解に律速されていることがわかった.
2: おおむね順調に進展している
本研究では当初,カンラン石の溶解速度を決定することを目的としていた.しかし,実際に実験を始めたところ,蛇紋石の析出がどうしても起きてしまい,カンラン石の溶解速度のみを決定することは容易ではないことがわかった.当初の研究遂行予定とは異なるが,得られた実験データは意味のあるものである.特に,実験データを解析した結果,蛇紋岩化反応の律速過程の時間変化を定量的に明らかにすることに成功している.本研究計画の遂行により新しい知見が生み出されているため,上記のような評価を行った.
今後はより長い時間をかけて実験を行い,反応速度の時間推移を観察する.また,現状の解析方法からは,カンラン石の溶解速度と蛇紋石の析出速度を個々に決定することはできなかった.今後はこれら個々の反応速度を推定するための数理科学手法を提案することを試みる.
コロナウイルスの影響により当初参加予定であった国際学会が中止になった.また,出勤制限があったことにより実験を思うように進めることができず,実験消耗品を購入する必要がなかった.これらの理由により次年度使用額が生じた.翌年度分として請求した助成金と合わせた使用計画として,計算用PCの購入に割当る計画である.翌年度は数理科学手法を用いた解析を行う予定である.数理科学手法を用いた解析には,計算が速いPCが必須である.そのようなPCの購入に割り当てる.
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Geothermics
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