かんらん石粉末と斜長石粉末を出発物質として、海洋下部地殻-上部マントルにおける熱水変質循環を模擬するための流通式水熱反応実験を行った。水熱実験の条件は、かんらん石粉末や斜長石粉末は層状に(かんらん石層/斜長石層/かんらん石層)のように封入されている。上流のかんらん石層では、蛇紋石+ブルース石が生成した。しかし、斜長石と隣接している周辺ではブルース石が観察されなかった。一方で、下流のかんらん石層では、蛇紋石のみが観察された。これらのことは、斜長石から放出されるSiの移動が、拡散および移流によって抑制または促進されることで、アシンメトリーな反応帯を形成したと考えられる。天然の露頭において、しばしばかんらん岩中にはんれい岩ブロックが含まれ、アシンメトリーな反応帯が観察されることがある。このような反応帯は、拡散と移流による元素移動の結果から生成すると考えれる。これらのことを応用することで、天然の岩石から流体が流れた方向を制約できる可能性がある。
研究期間全体を通じて、当初の予定通りかんらん石の反応速度に関する新しい知見を得ることができた。水熱実験の結果と反応経路モデリングを組み合わせた結果、蛇紋岩化反応は200-300度ではかんらん石の溶解に律速され,170度では蛇紋石の析出に律速されている可能性を見出した.反応経路モデリングなど反応の理論計算においては出発物質の溶解が律速すると暗に仮定されている。本研究の結果は、蛇紋岩化反応を反応経路モデリングを用いて模擬する場合、律速過程を考慮しなければいけないことを示唆する。また、温度によって律速過程が変化するため、地球内部においても蛇紋岩化反応の律速過程が変化している可能性が高い。このような動的な律速過程の変化が、海洋底リソスフェアにおける蛇紋岩化反応やそれに伴う水素の発生を支配していると考えられる。
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